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米2月小売売上高、予想外の強さ―減税中止やガソリン急騰の逆風下でも

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

米商務省が3月13日に発表した2月の小売売上高(季節・営業日調整後)は前月比1.1%増の4214億ドル(40.5兆円)と、昨年9月以来5カ月ぶりの高い伸びとなった。これは前月(1月)の同0.2%増の5倍超だ。

高い伸びとなったのは、最近の原油高で

2010年~2013年の小売売上高推移=米商務省
2010年~2013年の小売売上高推移=米商務省

ガソリン販売価格が同5%増と、急伸したため、ガソリンスタンドの売り上げが大幅増となったのが主因なのだが、ガソリンや自動車など月毎に変動が激しい項目を除いたコアの小売売上高も前月比0.4%増と、前月の同0.3%増(速報値の0.1%増から上方改定)を上回り、また、市場予想も超え、まさに予想外の堅調な動きとなった。

これまでは、エコノミストの多くは社会保障税の減税措置が1月から終わり、給与がその分減少する一方で、ガソリン価格の急騰で家計が圧迫されるため、個人消費は伸びないと予想していた。ちなみに、社会保障税の減税中止による今年1年間の消費減少額は年収5万ドル(約480万円)の単身世帯で約1000ドル(約9万6000円)、共働きの夫婦世帯は最大4500ドル(約43万2000円)という試算があった。

しかし、それにもかかわらず、コアの小売売上高が予想以上に強い伸びとなったのは雇用市場の改善が続いて所得が増えているプラス要因の方が大きいことを示した可能性があるとの見方に変わりつつある。もし3月以降もこうした小売売上高の堅調が続けば、今年上期(1-6月)の個人消費は予想以上に強まる可能性がある。

最近の小売り売上高の推移を見ると、昨年10月は自動車販売の急減で前月比0.2%減と、急ブレーキがかかった。しかし、その後は11月の同0.5%増、12月も同0.5%増、さらに1月も同0.2%増と、今回を含めて4カ月連続で増加し、過去3カ月(昨年12月‐2月)でも前年比4.5%増と、底堅い動きを示している。

この背景にあるのが最近の雇用状況の改善だ。実際、労働省が8日に発表した2月の新規雇用者数(非農業部門で軍人除く、季節調整済み)は、前月比23万6000人増と、前月の11万9000人増の約2倍に急増した。また、失業率も前月の7.9%から0.2%ポイント低下の7.7%と、2008年12月以来の4年2カ月ぶりの低水準となった。それに伴い、1時間当たり賃金も23.82ドルと、1月の23.78ドルを0.2%上回っている。

また、クレジットカードや自動車ローン、教育ローンなどを含めた1月の消費者信用残高は162億ドル増と、昨年11月の161億ドル増、12月の151億ドル増を上回り、信用残高は拡大基調にあり、消費意欲が強くなっている。ちなみに昨年9月は117億ドル増だったので、それに比べると2月の増加幅は1.4倍だ。

米経済調査会社ナロフ・エコノミック・アドバイザーズの代表でチーフエコノミストのジョエル・ナロフ氏は、小売売上高の伸びが今後一段と強まれば、1‐3月期GDP(国内総生産)伸び率は+2%超、4‐6月期GDPは+4.2%に加速し、失業率がさらに低下する可能性があると指摘している。ただ、オバマ政権が3月1日から開始した歳出の強制削減を撤回することが条件で、撤回されなければ4‐6月期GDPの伸びはおよそ+3%にとどまるとしている。

自動車・同部品除いた小売売上高、1%増

月毎に変動が激しい自動車・同部品を除いた小売売上高は前月比1%増と、1月の同0.4%増を大幅に上回った。また、市場予想の同0.5%増の2倍だった。

また、月毎に変動が激しい自動車・同部品やガソリン、建築資材を除いた、いわゆる、コアの小売売上高では同0.4%増と、堅調な動きを示している。ちなみに、コア売上高はGDPの計算に利用され、長期の個人消費の動向を見る上で有効とされている。

2月の小売売上高の内訳は、全13業種中、ガソリン(前月比5%増)や自動車(1.1%増)、食料品店(0.8%増)、一般小売(百貨店・スーパーなど、0.5%増)、インターネット・通信販売(1.6%増)、その他小売り(1.8%増)、住宅資材・園芸用品店(1.1%増)、衣料品(0.2%増)の8業種が増加したのに対し、家具(1.6%減)や家電(0.2%減)、スポーツ用品・趣味(0.9%減)、レストラン(0.7%減)の4業種が減少した。ヘルスケアは横ばいだった。

自動車・同部品販売、1.1%増

小売り全体の増加を支えたのは自動車・同部品で、前月比1.1%増と、1月の同0.3%減から増加に転じた。前年比も7.8%増と堅調。自動車・同部品のうち、自動車ディーラーも同1.1%増と、1月の同0.4%減から増加に転じている。前年比は8.8%増だった。

米調査会社オートデータが2日に発表した2月の米新車販売台数は、ゼネラル・モーターズ(GM)など米大手3社と日本勢が市場をけん引し、前年比3.7%増の119万2249台と、1月の同14.2%増の大幅増のあとも好調を持続。年率換算でも1538万台と、4カ月連続で1500万台を記録している。

ガソリン販売、5%増=価格上昇で

一方、月毎に変動が激しいガソリン販売は価格上昇を受けて前月比5%増と、1月の同0.7%増から急伸した。これは昨年8月の同6%増以来半年ぶりの高い伸びだ。また、前年比は3.6%増(1月も2.7%増)と、高水準になっている。

ガソリン価格は、EIA(米エネルギー情報局)によると、2月25日までの週のレギュラーガソリンの全国平均価格は1ガロン当たり3.784ドルで、1カ月前(1月21日終了週)の3.315ドルから14%も上昇。また、月平均でも2月は3.670ドルと、1月の3.319ドルから10.6%上昇している。最新の3月11日終了週のデータは3.710ドルと、やや低下している。

2月消費者信頼感指数、上昇続く=雇用や株式市場の回復で

一方、14日に発表された2月のミシガン大消費者信頼感指数(確定値)は77.6と、前月(1月)の73.8を上回り、2カ月連続で上昇した。市場予想の76.3も上回った。ただ、水準的には2008‐2009年のリセッション(景気失速)に入る前の平均の約87を依然下回っている。

2月の同指数が改善したのは、ガソリン価格が上昇しているものの、株式市場の回復や雇用市場が改善しているためと見られている。このため、エコノミストは雇用市場の改善が続き、所得の増加も続く限り、同指数は引き続き上昇すると楽観的に見ている。

半年先の景況感を示す期待指数も前月の66.6から70.2に上昇し、現況指数も前月の85.0から89.1に上昇している。

一方、コンファレンス・ボード(全米産業審議会)が14日に発表した2月の消費者信頼感指数も前月の58.4から69.6に上昇し、市場予想の62.0も上回った。同指数の上昇も株式市場の回復と雇用市場の改善を反映したもので、期待指数も前月の59.9から73.8へ、現況指数も56.2から63.3へ急伸している。

百貨店、前月比1%減

ところで、個人消費を見る上で重要な百貨店の2月の小売売上高は、前月比1.0%減の149億ドル(約1.4兆円)と、前月の同0.5%増から減少に転じた。前年比も3.8%減と、前年水準を下回っている。

これらの数値はいずれも季節・営業日調整値だが、調整前では2月は前月比6.7%増の124億ドル(約1.2兆円)と増加した。しかし、前年比は7.8%減と、前年割れとなっている。

ただ、百貨店にスーパーなど量販店を加えた一般小売販売は前月比0.5%増と、1月の同0.2%増から伸びは加速している。しかし、それでも前年比は3.8%減と、前年水準を下回っている。季節・営業日調整前では前月比4.4%増、前年比は4.7%減。

対照的に、インターネット・通信販売は前月比1.6%増と、1月の同1.4%増を上回った。

一方、ICSC(ショッピングセンター国際評議会)が7日に発表した2月の米小売各社の既存店売上高指数は、前年比1.7%上昇(小売大手ウォルマート・ストアーズは除く)と、1月の4.5%上昇を下回った。ただ、この数字は季節調整前なので、政府の小売り統計の季節調整後のデータとの整合性はない。2月の同指数は百貨店や量販店、ドラッグストア、衣料品店の主要16社の売上高で構成。 (了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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