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ロシア中銀、ナビウリナ大統領補佐官の次期総裁就任で金融緩和に向かうか?

増谷栄一The US-Euro Economic File代表

ウラジーミル・プーチン大統領は12日、今年6月に任期満了に伴い退任するロシア中銀のセルゲイ・イグナチェフ総裁(65)との会談で、同総裁の後任として、エリビラ・

ロシアの次期中銀総裁に指名されたナビウリナ氏=大統領府サイトより
ロシアの次期中銀総裁に指名されたナビウリナ氏=大統領府サイトより

ナビウリナ大統領補佐官(前経済発展相)を指名する意向を明らかにした。

ナビウリナ氏が新総裁に就任すれば、先進主要8カ国(G8)の中では初めての女性の中銀総裁となる。女性の中銀総裁は全世界でも12人(全体の6%)にすぎない。また、同氏はまだ49歳でロシア中銀の若返りも図られる。しかし、ナビウリナ新総裁はインフレ率を2月現在の年率7.3%から5-6%低下させる一方で、同時に景気も維持するという難しい金融政策の舵取りに迫られるのは必至だ。

これまで次期総裁候補者としては、中銀のアレクセイ・ウリュカエフ第1副総裁やアレクセイ・クドリン元副首相兼財務相、アルカージ・ドボルコビッチ副首相、ロシア2位の国営金融大手VTB(対外貿易銀行)のアンドレイ・コスチン頭取、VTB傘下のVTB24銀行のミハイル・ザドルノフ頭取などの名前が取りざたされていた。このうち、クドリン氏は就任要請を断っている。また、一時、有力視されていた、セルゲイ・グラジエフ大統領補佐官は国家統制主義に偏った考え方が地元メディアから批判されており、最終候補者のリストから消えている。他方、中銀自体はウリュカエフ氏とナビウリナ氏が最有力と見ていた。

モスクワ・タイムズ(電子版)によると、プーチン大統領は中銀幹部や問題が多い他の候補者を次期総裁に指名することには消極的で、ナビウリナ氏はまだ49歳と若くエコノミストとしても知られることから適任と考えていたとようだ。特に、プーチン大統領はナビウリナ氏を起用することによって、景気刺激のための金融政策を新総裁に求めていきたいという考えもあると言われている。

経済界やアナリストは、ナビウリナ氏の新総裁就任によって、ロシア中銀は金融緩和に向かう可能性が高いと見ている。中銀は昨年9月以降、主要政策金利であるリファイナンス金利を現行の8.25%のまま据え置き続けており、今週末15日の理事会でも金利据え置きが予想されているが、こうした中銀の金融引き締め策がロシアの経済成長を阻害していると批判しているVTBのコスチン頭取は、ナビウリナ新総裁の下で、他の中銀幹部も入れ替わると予想している。

特に、ウリュカエフ第1副総裁は、利下げはインフレを悪化させるので景気刺激にはならないと主張し続けており、景気リスクよりもインフレ悪化リスクを重視するタカ派(インフレ重視の強硬派)的な存在だ。それだけに、ロシアの政策シンクタンク、ガイダル経済政策研究所のアレクセイ・ベデフ氏がナビウリナ氏の新総裁就任によって金融政策が一段と柔軟になり、また、同氏の経済発展相としての経験から成長重視に代わると予想しているように、金融緩和に向かうことへの期待感が強い。

他方、退任が決まっているイグナチェフ総裁は、ロシアのプライム通信(電子版)で、「ナビウリナ氏が新総裁になっても金融緩和に転換することはないだろう」とした上で、「我々は金融緩和を期待すべきではない。中銀の政府からの独立性を維持し現実的な政策決定をすることが重要であり、それによって持続安定的な経済成長を達成する土台を築くことができる」と早くも“けん制球”を投げている。

ナビウリナ氏は2007年9月に経済発展相に就任し、昨年5月から大統領補佐官となっている。今後、同氏は議会の承認を経て新総裁に就任することになる。 (了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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