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アジア開銀、昨年の不正告発件数過去最高に

増谷栄一The US-Euro Economic File代表
アジア開銀、2012年反汚職年次報告書を発表=開銀サイトより
アジア開銀、2012年反汚職年次報告書を発表=開銀サイトより

次期日銀新総裁にほぼ内定している黒田東彦氏が総裁を務めるアジア開発銀行(ADB)が4日、2012年の反汚職年次報告書を発表した。これは内部の反汚職・誠実局(Office of Anticorruption and Integrity:OAI)の調査結果をまとめたものだが、それによると、昨年は、ADB関連の投融資プロジェクト案件のうち、不正流用や職権乱用、談合、妨害行為、利害の対立などがあった疑いがあるとして過去最高の240件もの告発がADB内部のスタッフ(120件)と外部関係者(110件)からあったという。

このうち、実際にOAIが実際に調査を開始したのは全体の48%に相当する114件で、残りは立件に至らず調査終了となったという。調査の結果、結局、42企業と38人の個人に制裁処分を受けた。不正行為の大半は、ADBから投融資を受けるため、過去の実績や経験、技術能力などを偽ったケース、さらにはADBから仕事を受注した個人やコンサルティング会社だった。そのほか、57企業と51人が、ADBが資金を出している契約への参加資格停止処分を受けたとしている。

OAIのクレア・ウィ(Clare Wee)局長は、声明文で、「アジア開銀に出資している国・地域で厳しい財政緊縮政策が実施されているときに、(加盟国地域内の)開発の使命を託されている人々は減少の一途にある開銀の財源を使う義務があるとはいえ、その資金が不正流用されたり、乱用されたりすれば、ADBからの投融資を切実に必要としている人々から基本的なサービスや(投融資などさまざまな支援を受ける)権利、機会を奪うことになる」と厳しく糾弾している。

アジア開銀には67カ国・地域が出資している。最大の出資国は日本と米国の各15.7%だ。このため、歴代のADB総裁は日本から出ており、大半は財務省などのトップ官僚だ。現在の黒田総裁も財務省の元財務官で、3月18日にADB総裁を辞任する予定。不正流用額がどれだけの規模なのかは明らかにされていないが、最大出資国である日本の国民の税金が無駄に使われてはならない。

ADBの不正告発件数は、2008-210年は200件を下回って落ち着いていたが、2011年から200件を突破し、2年連続で増加している。OAIは不正行為との戦いを強化した結果だと自画自賛しているが、告発に頼って問題が起きてから処罰するよりも不正行為が起きないよう事前審査のシステムの強化が優先されるべきだろう。ただ、内部告発が半分の120件もあったことは不正に対するADB職員の意識の高さを示すと同時に、通報者保護規定がうまく機能を発揮しているともいえ、民間の金融機関でも学ぶべきところは多い。(了)

The US-Euro Economic File代表

英字紙ジャパン・タイムズや日経新聞、米経済通信社ブリッジニュース、米ダウ・ジョーンズ、AFX通信社、トムソン・ファイナンシャル(現在のトムソン・ロイター)など日米のメディアで経済報道に従事。NYやワシントン、ロンドンに駐在し、日米欧の経済ニュースをカバー。毎日新聞の週刊誌「エコノミスト」に23年3月まで15年間執筆、現在は金融情報サイト「ウエルスアドバイザー」(旧モーニングスター)で執筆中。著書は「昭和小史・北炭夕張炭鉱の悲劇」(彩流社)や「アメリカ社会を動かすマネー:9つの論考」(三和書籍)など。

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