大阪府が半世紀をかけ「小さく産んで多く育てる」安威川ダム

大阪府の安威川ダム建設現場(2017年11月5日筆者撮影)

 11月5日に、大阪府が国からの補助金を得ながら進めている安威川(あいがわ)ダムの現地見学会が開催され、府内外から71名が参加した。

 水源開発問題全国連絡会と実行委員会(茨木市民運動連絡会/安威川ダム反対市民の会)が主催、大阪府(安威川ダム建設事務所企画グループ)の荻田充祥グループ長がダム計画を説明した。

事業目的はコロコロ変遷

 荻田グループ長は「このダムは昭和42年(1967年)に北摂中心の豪雨災害がきっかけで検討された。50年を迎える息の長い事業となった。100年に1回の洪水にダムと河川改修で対応する」と、事業目的を説明した。

大阪府安威川ダム建設事務所の荻田充祥企画グループ長(2017年11月5日筆者撮影)
大阪府安威川ダム建設事務所の荻田充祥企画グループ長(2017年11月5日筆者撮影)

 ただし、その目的はコロコロと変わってきた。安威川ダム反対市民の会の江菅洋一さんは、「いったんは『農業用水も』という話になったが、負担を払うなら『いらんわ』と農家が言うて、『ほんなら水道や』と変わりました。ところが『なんでや』と私たちが情報公開請求をしたら文書がなかった。『高度な政治的な判断だ』っちゅうんです」と変遷の経緯を語る。

 しかし、その水道用水も1日7万立方メートルを使う計画を2005年には1万立方メートルに縮小。わずか4年後の見直しで利水目的は2009年に完全に消えたが、ダムに頼る治水対策は変わらなかった。

地質対策などで222億円増額

 地質については、国土問題研究会の奥西一夫・京都大学名誉教授と田結症(たのしょう)良昭神戸大学名誉教授が解説を行った。

 奥西教授は、「安威川ダムの本体着工後に出された報告書を見ると、ダム湛水域(水が貯まる地域)の調査は、ダム本体の荷重や湛水の影響を無視したものになっている」と説明。

 田結症教授は、「ダムに適さない風化した岩盤や断層が分布していることが分かり、工事が始まってから、計画以上に岩盤を掘り下げている」と述べた。

ダムサイトを望む丘で解説する奥西教授(2017年11月5日筆者撮影)
ダムサイトを望む丘で解説する奥西教授(2017年11月5日筆者撮影)

 「ザックリいうと、ダム本体工事が始まって岩盤を削り始めたら地質の悪さが分かって、対策費が増大したという話か」と筆者が尋ねると、奥西教授は「そういうことです」と頷いた。

 同じ問いを荻田グループ長に投げかけると、「『ザックリ』というのは私どもとしては語弊があります。施行前の調査をしたが、掘削で基盤が出てくると、当初は拾い切れていなかったところが確認できたということです」と言い換えた。

 江菅さんは「要するに、削らなければならない軟弱な地盤が出てきて、削ったら軽くなって間隙が広がって水道(みずみち)ができて、対策が必要になった。府の資料にもそう書いてある」と言う。

 確かに、府の都市整備部北部整備推進課の資料には「ダム堤体の基礎となる地盤の内部には、細かい隙間が存在しており、水の通り道となる。その間隙にセメントミルクを注入し止水する」と書いてある。

 「そのために今年(2017年)7月10日に98億円も増額した」と述べたのは、安威川ダム公金支出差止訴訟の浅野省三弁護団長だ。「その他も合わせて222億円の増額です」(荻田グループ長)という。当初予算1314億円が1536億円となった。

 「まさに、小さく産んで大きく育てるダム事業です」(江菅さん)。

河川法改正20年シンポジウム

 前日の11月4日には同団体らは、シンポジウム「川は誰のものか 河川法改正20年。河川行政は変わったのか~大阪安威川ダム計画から考える~」を開催(筆者もパネルディスカッションでコーディネータを務めた)。

 基調講演を行った宮本博司さん(元国土交通省近畿地方整備局河川部長)は2009年10月当時の国土交通大臣に、これまでの治水計画の問題点と転換すべき方向性を示して欲しいと助言を求められ、「住民の命を最優先で守る治水への転換が必要だ」とダムの限界と共に洪水エネルギーを流域全体で受け止める流域治水の具体策などを提案したが、それらの意見がまったく取り入れられなかったことを明かした。

 司会を務めた茨木市民運動連絡会の畑中孝雄さんは「住民運動の再構築が重要だ」と今後を見通した。人口減少が本格化する中で、国が主導してきた治水政策の転換と共に、住民による自治体監視もますます重要となる。

 

シンポジウムで開会挨拶をする安威川ダム反対市民の会の江菅洋一(2017年11月4日筆者撮影)
シンポジウムで開会挨拶をする安威川ダム反対市民の会の江菅洋一(2017年11月4日筆者撮影)

【関連配信】

石木ダム:2012年の河川官僚バリケードが招いた2017年の住民座り込み(上)

石木ダム:2012年の河川官僚バリケードが招いた2017年の住民座り込み(中)

石木ダム:2012年の河川官僚バリケードが招いた2017年の住民座り込み(下)