選挙で問われるべき「緊急事態条項」

炉規法対象外の事業者が放射性廃棄物の焼却を行っている(2017年9月筆者撮影)

 復興庁によれば、47都道府県に8万4千人が避難を続けている(2017年9月現在)。2011年以来、原子力災害対策特別措置法に基づく「原子力緊急事態宣言」は、現在も発令中だ。その解除の見込みがない中、その体制下で制定された放射能汚染物質対処特別措置法は、多くのダブルスタンダードを国民に強要している。

 第1のダブルスタンダードは「原子力緊急事態宣言」そのものにある。

 原子力緊急事態宣言によって避難すべき地域を指定したが、下図にまとめたように、1)放射能汚染地域と、2)除染を必須とした地域と、3)原子力緊急事態宣言による避難地域は一致していない。

 2)の除染は公衆の被ばく限度である年間1ミリシーベルトの基準をクリアすることを目標に行われるもので、年間20ミリシーベルトを超える地域の住民は避難、1~20ミリシーベルトの言わば「仮想非汚染地域」(実際は汚染地帯)の住民は、1ミリシーベルトの目標達成までは、汚染との共存か「自主避難」を余儀なくされてきた。

文科省と福島県資料を元に筆者作成
文科省と福島県資料を元に筆者作成

 第2のダブルスタンダードは、第1のダブルスタンダードで先述した「公衆の被ばく限度である年間1ミリシーベルト」にある

 「公衆の被ばく限度である年間1ミリシーベルト」とは、原子力事故災害は起きない前提で原子炉等規制法(炉規法)で定められているものだ。東京電力など原子力事業者に対して、同法「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則」に基づく「実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則の規定に基づく線量限度等を定める告示」で、「周辺監視区域」における経済産業大臣の定める線量限度として定められている。「周辺監視区域」とは、原発周辺のわずかな地域を指す。

 実際には、上図に示すように東電事故後による汚染は「周辺監視区域」を遥かに越えて広がったため、本来なら、炉規法を改正し、「周辺監視区域」の概念と範囲を広げなければならない。しかし、その改正がないまま、憲法14条の定める「法の下に平等」が崩れ、炉規法がカバーしない地域での汚染が許容されている。

 第3のダブルスタンダードは健康調査だ。

 上図で示した汚染地域のうち、国と東電が拠出した資金によって健康調査が行われてきたのは福島県だけだ。子どもの甲状腺がんは100万人に1~3人とも言われきたにも関わらず、福島県では37万人を対象とした検査で(受診者はより少ないが)191人に甲状腺がんまたはその疑いが報告されてきた(詳細は既報)。

 NPO法人3・11甲状腺がん子ども基金の活動により、福島県内外でその調査を受けなかった子どもたちの申請で新たな事実も見つかっている(詳細は既報)。健康調査は県内県外のダブルスタンダードではなく、汚染地域全体を包含すべきだ。

 第4のダブルスタンダードは放射性廃棄物の扱いだ。

 原子力施設では、放射性廃棄物として扱う必要がなくなる基準を「クリアランスレベル」と言い、金属、コンクリート、ガラスなどについて、300種の放射性物質のクリアランスレベルを定めている。たとえばセシウム134と137は計100ベクレル/kgだ。それを下回らない限り、管理不能な状態で施設外に出してはならない。

 ところが、東電事故後は、放射能汚染物質対処特別措置法の政令で、8000ベクレル/kgを下回れば焼却・埋立が可能となってしまった。

 たとえば宮城県では、村井嘉浩知事が牧草、堆肥、ほだ木などの放射性廃棄物(8000ベクレル/kg以下、県測定で平均518ベクレル/kg、3万6千トン)の一斉焼却を提唱。7月15日の宮城県指定廃棄物等処理促進市町村長会議で「同じ日に、『せいの』で『まず燃やし始めるんだ』(略)、批判を受けながらでも『みんなで手をつないで 一歩前に進む』ということが重要でございます」(2017年7月15日第14回議事録より)と述べた。

 この方針には、住民の不安に耳を傾けて、従わない仙台市などの自治体もある一方、大河原町のように従おうとする自治体もある。 

仙南地域広域行政事務組合の仙南クリーンセンター(宮城県角田市、写真奥)は、大河原南小学校(宮城県大河原町、写真手前)の目と鼻の先にある(2017年9月9日筆者撮影)
仙南地域広域行政事務組合の仙南クリーンセンター(宮城県角田市、写真奥)は、大河原南小学校(宮城県大河原町、写真手前)の目と鼻の先にある(2017年9月9日筆者撮影)

 こうした焼却炉は、もちろん、原子力規制委員会が所管する炉規法の範疇外だ。

 つまり、規制基準に従って放射性物質を扱う知識のない事業者や自治体が、作業員や周辺住民への健康影響を保護する義務を課されないまま、焼却で濃縮される放射性物質を扱ったり、8000ベクレル/kg以下の放射性物質の焼却・埋立を行うという問題が生じている。

 作業員や周辺住民もまた、十分な情報も知識も与えられないまま、このようなダブルスタンダードにさらされている。

 第5のダブルスタンダードは汚染土壌の扱いだ。

 先述したように原発施設については、放射性廃棄物には100ベクレル/kg(セシウム換算)という基準で原発施設から持ち出してはならないという規制があるにもかかわらず、汚染土壌については、8000ベクレル/kg以下なら利用してよいという戦略を環境省が進めようとしている。

 これは、国会で立法された法律でもなく、国民のほとんどは知らない。

 環境省独自の「戦略」や「考え方」を環境省が既成事実化しようとしているものだ。その戦略とは、公共事業で使う分には管理が可能だという前提だが、実際に公共事業を請け負うのは民間事業者であり、自然災害を考ても「管理」は絵に描いた餅だ。

 しかし、国は原発事故で放射能汚染された土壌の利用を規制する法律を制定していないために、「無法地帯」が存在する。

 そして、目下、環境省が広げようとするこの無法地帯を押し止めているのは住民と自治体の良識のみである(筆者著『あなたの隣の放射能ゴミ』(集英社新書)参照)。

 こうしたダブルスタンダードは、原子力災害対策特別措置法に基づく緊急事態条項と、その体制下で制定された放射能汚染物質対処特別措置法、および、法に定めのない環境省の戦略によって生じている。憲法に緊急事態条項を加える公約を出している党もあるが、その前にやるべきことは、発令中の原子力緊急事態がもたらしている課題を特定、検証、解決することである。