福島の小児甲状腺がんに無関心な元官僚トップの中川環境大臣

会見での回答は「事務方」頼りの中川環境大臣(8月29日筆者撮影)

 8月3日の就任以来、約1カ月が経過したが、中川雅治環境大臣は原子力防災担当大臣でもあり、かつ環境官僚トップの経歴を持ちながら、東京電力福島第一原発事故以後に発症している小児甲状腺がんについて、自らの言葉で語ることができない程度の関心しか見せなかった。

がん件数の過小評価「報告を受けた」だけ

 子どもの甲状腺がんは100万人に1~3人とも言われきた(★1)。

 しかし、東京電力福島第一原発事故後、福島県立医科大を中心に行われてきた1巡目の検査では約30万人の受診者のうち116人、2巡目では約27万人中71人、現在進行中の3巡目では約12万人中4人、計191人が甲状腺がんまたはその疑いがあると報告されてきた。

 この多発については、現在に至るまで、県も国も事故との因果関係を認めていない。

 しかし、この191人でさえ過小評価であることが、2017年6月5日(第27回)に行われた福島県の県民健康調査検討委員会で判明した。福島県立医科大は、2次検査で「経過観察」とした患者を「通常診療」に切り替えてしまい、たとえ、がんの摘出手術を行ったとしても、その手術数は委員会に報告してこなかった(★2)。

 就任から1カ月が経過したが、中川大臣はこの問題をどうとらえているのか。また、長期的な健康管理の必要性が認識されながらも、受診者が減り続けており、健康管理手帳の発行などの解決策が課題視されて久しいが、それについては対策を考えているのか。

 8月29日の大臣会見でこれらの問題を尋ねた。

 記者クラブからは予め「この後、大臣は自民党環境部会への出席のため、時間はあまりとれないらしい」との見通しが示されていたが、質問には、環境保健部の放射線健康管理担当参事官室の寺原朋裕参事官補佐が回答を代弁しようとして、事実関係を冗長に繰り返した。

 がん件数は、東電の加害責任(因果関係)の証明にもかかわる重大な問題であるにもかかわらず、中川大臣は「各部局から就任後順次、所管事項の説明を受けました。その中で報告を受け」ただけで、自ら発する言葉を一切持っていない。

会見場の後ろから回答する寺原参事官補佐(8月29日筆者撮影)
会見場の後ろから回答する寺原参事官補佐(8月29日筆者撮影)

 また福島第一原発による放射能汚染は、福島県内にはとどまっていないため、除染を行った県内外の地域で健康管理を行う必要性が指摘されていることを「健康管理手帳」の必要性という聞き方で尋ねたが、同様だった。

 中川大臣は寺原補佐に答えさせた上で、「甲状腺がんの問題につきましては今事務方が申し上げましたが、専門家の意見を聞くということが大事」と回答するに留まった。以下、その模様を抜粋する。

中川大臣記者会見録(平成29年8月29日(火)於:環境省第1会議室)より関係部分抜粋。

(問)福島第一原発の事故後に191名の甲状腺がん、また疑いが明らかになっているそのほかに、2次検査で経過観察となったものについては約2,000人の子どもたちが摘出手術をしたとしても、把握されない、公表されないということが明らかになりました。これについては福島県立医大は把握されているのですが、国はどのように把握されていかれますでしょうか。

寺原参事官補佐:甲状腺検査につきましては福島県の県民健康調査検討委員会で議論されているものと承知しております。6月5日に開催されました第27回の県民健康調査検討委員会におきましては、経過観察後の手術症例への把握の必要性について指摘する意見が出る等、手術症例に係る具体的な検討が進められているところでございます。福島県民の健康を見守るためにも、より正確な情報を把握することが重要と考えております。環境省としましても引き続き福島県に対して必要な支援を行うとともに、福島県の県民健康調査検討委員会での議論を関心を持って注視してまいりたいと思っております。

(問)大臣は今説明があったようなことをいつ報告を受けましたでしょうかということが一つと、もう一つそれに関連してですが、福島県内外で環境省が土壌の汚染濃度が高いので除染を命じたところがあります。その福島県内外の自治体の住民、特に子どもですが、子どもを含め住民の健康管理手帳のようなものを配布して、そして継続的に健康診断、管理を行っていく必要性があると思いますけれども、その点についてどうかということもあわせてお願いします。

中川環境大臣:今、環境保健部から御報告させていただきました事項につきましては、各部局から就任後順次、所管事項の説明を受けました。その中で報告を受けております。

寺原参事官補佐:繰り返しになりますけれども、福島県の県民健康調査は基本調査と詳細調査がございます。詳細調査の方は四つございまして、甲状腺検査、こころの健康度・生活習慣に関する調査、健康診査、それから妊産婦に関する調査でございます。こちらの各県民健康調査の在り方に関しましても、福島県が主催しております県民健康調査検討委員会において議論されております。専門的な方々の議論が非常に大切だと思いますので、環境省としましても引き続き、県民健康調査検討委員会の議論を注視してまいりたいと思っております。

(問)長くなるのでもう1問だけすみません。今、説明されたのは福島県内の問題だけですけれども、県外でも甲状腺がんを患った子どもが増えているのではないかという数値が上がっておりまして、県内外、つまり環境省が汚染が高いと認めて除染を命じたところはリスクがあると思うので、大臣としてこの問題について、もう一度考える必要があると思うのですが、どうお考えになりますでしょうか。

中川環境大臣:甲状腺検査あるいは甲状腺がんの問題につきましては今事務方が申し上げましたが、専門家の意見を聞くということが大事だと思っております。いずれにしましても、福島県の甲状腺検査につきましては継続中でございますし、それ以外の県につきましても、専門家の意見を聞きながら環境省としては、しっかりとその動向を注視していくことが重要だというふうに考えております。

寺原参事官補佐:補足させていただきます。福島県外の県民健康調査の在り方についての御質問だと思います。環境省の専門会議の中で平成26年12月に中間取りまとめがでておりますけれども、そちらの中で甲状腺検査の県外調査に関しましては慎重になるべきだという評価になっております。また、各都道府県に置かれております有識者会議の中でも、福島県外における県民健康調査に関して、慎重になるべきだという形で取りまとめられていると承知しております。

(問)その後、甲状腺がんが更に増えていますので、今のお答えは不十分過ぎると思います。

(事務方)必要があれば会見後事務方にお聞きください。

 寺原補佐が回答した専門家会議が2014年12月に「中間取りまとめ」を出してからすでに約3年が経過した。会見後、寺原補佐に、この専門家会議を再開する予定を尋ねたところ「ない」という。

 その後、OurPlanet-TVが、福島県立医科大学の甲状腺・内分泌学講座の鈴木眞一教授ら研究グループが実施した小児甲状腺がんの手術症例を登録し、データベースを構築し、その中には「福島県民健康調査の検討委員会に報告されていない3例」も含まれていると報道した(「存在していた!福島医科大「甲状腺がんデータベース」)。

 このデータベースの件を、1)環境省は知らなかったのか、2)この報道後にデータベースの中身を入手したかどうか、3)今後の対応をどうするのか、環境保健部放射線健康管理担当参事官室から回答が来た後に続報する。

記者らの質問に答える中川環境大臣(8月29日筆者撮影)
記者らの質問に答える中川環境大臣(8月29日筆者撮影)

★1)「Q3放射線被曝と甲状腺がんの関係は?」(一般社団法人 日本臨床検査薬協会 )および「子どもには少なく、年齢とともに増加するか? 1975年から2012年まで0~14歳では人口10万人に対して0~0.25人いるかいないかである」(「甲状腺がん:福島、広島、長崎の比較」)をご参照ください。

★2)「正確な数が把握できないカラクリだった」(次の組閣で求められる環境大臣:「誰」ではなく「何」が急務か)をご参照ください。

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