石木ダム:2012年の河川官僚バリケードが招いた2017年の住民座り込み(下)

付替道路工事現場に座り込む住民(2017年8月29日、支援者撮影提供)

 2012年に河川官僚バリケードが地権者の傍聴を拒んで「検証」したダム事業の予定地で、地権者らが抗議の座り込みを行うようになった経緯(上)(中)の続き。

 国土交通省は、有識者会議での議論を経て『石木ダムに関しては、事業に関して様々な意見があることに鑑み、地域の方々の理解が得られるよう努力することを希望する』と長崎県に対応方針と共に通知した際、元河川官僚OBの中川座長が述べた「これだけのバリア」が、どれだけのものかは想像もしていなかっただろう。

 あれから5年。2017年9月現在も、川原(こうばる)住民の座り込みは続いている。2010年3月にそれが始まったきっかけも、かつて長崎県知事が地元住民の了解なしには工事を進めないと約束したにもかかわらず、強行しようとしたことだった。同じことが繰り返されている。

 今年8月17日には、県知事との面会を求めて地権者と長崎県土木部長らとの協議が行われたが、決裂した。以下は、長崎県河川課の田中課長補佐と筆者の8月31日の電話上でのやり取りだ。

Q:有識者会議で検証されたときに「石木ダムに関しては、事業に関して様々な意見があることに鑑み、地域の方々の理解が得られるよう努力することを希望する」という通知があったが、県は忘れているのか?

田中課長補佐:こちらは協議を止めるということは一言も言っていない。工事は再開しますということはお伝えしたが、それに対して地権者の方々は、工事を再開するなら交渉は打ち切りかという話があったと思う。

(略)

Q:話し合いをしている間は、工事を再開しないで欲しいと地権者は言われているが。

田中課長補佐:工事とは別問題だと思っている。工事をやっているところについては、すでに買収をして、契約をしているところですので、今、反対、妨害をされていると思うが、今の方々の土地ではなく、工事を進めていけるところなので、そこについては工事を進めていくのが通常の考え方だと思う。

 一方、水没予定地世帯の岩下すみ子さんは、工事を再開すると言ったのは、今年4月に国土交通省から出向してきた県の岩見洋一土木部長だと述べた。

 「地元を知らない、現場のことも知らないで、そういう対応をする。知事は13世帯を個別に1軒づつバラバラに対応する。それはそれとして明日から工事は再開しますと部長が言ったんです。それで決裂したんです。13軒ある中で1軒でも個別に会えば、賛成するとでも思っている。1軒づつ会ってでも、自分達の気持ちを言おうと思っていたんですよ。気持ちは一緒だからですね。それとは別に工事を再開するというので、話し合いにはなりませんねとなったんです。」

 「今日は5時まで。明日朝は何時から始まるか決まっていない。7時頃来ることもある。夜中の3時に来たこともある。工事をしながら話合いができますかね、私たちも限界がありますよね。だから、部長に、『明日から現場の中に入って抗議行動をします』と言ったんです。会議の中で言ったんです。所長も県職員もいる中で、明日から抗議活動は現場の中でしますって、今までは(工事現場の)ゲートの外で止めていたんですけどね。ゲートのA、Bがあって。その間の護岸を崩してそこから重機を入れたんです。だから3箇所を皆で走り回って。今日も小さなユンボが3台。県職員も2,30人いた。取り囲んで座り込みの排除にくる。今日も警察を呼んだ。そういう感じですよ」

 佐世保市内から川原(こうばる)へ毎日駆け付ける支援者にも話を聞いた。

Q:どんなことを考えて支援を続けていますか。

支援者:佐世保市は利水で参加していますけど、まったく必要のないダムだと思っています。平均給水量が7万トン前後しかなくて、1万トン近くが漏水しています。だから差し引いた6万トンが市民の使用水量なわけですよね。石木ダムはまったく必要がないのに13世帯53人の生活を奪うようなことは許せないし、そうやってできた水は私たちは飲めない。佐世保市には北部の佐々川に使っていない水利権があってどうしても必要ならそれを使えばいいんです。

 先述の田中課長補佐は、知事と13世帯の協議の条件として、1軒1軒別々に会うことの他に、マスコミはシャットアウト、録音録画は不可、時間は1時間程度に区切ると、たくさんの条件をつけたことを認めた。そして、その条件を付ける理由は、以前にも話合いの場を設けたが、「一方的に質問されるような状態で、静音な場で、我々の意見を聞いて頂ける場とならなかった」からだと言う。

 「我々(県)の意見を聞いて頂ける」『静穏な場』は、2012年に河川官僚による人間バリケードですでに実現されている。

 長崎県に必要なのは、命がけで意思表示をする地権者を命がけで説得する誠意だ。その誠意さえ持たず、性急に工事を再開しながら話し合ってやるというのでは、そのダム事業こそが、県民にとって切実でもなければ緊要でもない事業ではないことを物語っている。

 事業構想から半世紀、現在まで続く座り込みは、県の報告が中間とりまとめに沿っているかどうかを確認するだけのダム検証の手法が間違っていたことさえも物語る。

 2012年の河川官僚バリケードは「かじの切り間違え」に他ならず、現在の座り込みを招いたものだと言わざるを得ない。

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