米朝:平和協定と非核化に橋を架けるのは誰か

72回目の終戦記念日。アジアの平和を今日だからこそ考えたい。(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 朝鮮戦争の休戦協定に代わる「平和協定」を求める北朝鮮と、自らの敵対政策は保持したまま「非核化」を交渉の前提条件にすえてきた米国。その両国のスタンスをありのままに伝えてこなったのは、日本語のメディアだけではないようだ。

 北朝鮮に関する情報分析機関「38ノース」は、8月9日、北朝鮮が交渉に誠実か、また対話が機能するかどうかは議論の余地があるとしても、北朝鮮は、米国がまず北朝鮮への敵対政策を止めることが、核について議論をする上での唯一の道だとメッセージを発していることぐらいは、メディアは報道すべきだと「フェイク・ニュース」という強い表現のタイトルを付けてメディア批判を行った。

 8月12日までにはドイツのメルケル首相、ロシアのラブロフ外相、中国の習近平国家主席が米朝の挑発に対して自制を求めた。

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、14日の大統領府首席・補佐官会議で、軍事オプションによる核問題への対応に反対する立場を明らかにして、「大韓民国の国益が最優先であり、大韓民国の国益は平和だ」と述べ(東亜日報)、15日には、「朝鮮半島における軍事行動は韓国によってのみ決定が可能」(ロイター)だとその決意を明らかにした。

 これは、安倍首相が7月31日に、トランプ米大統領との電話会談後に「平和的に解決をしていくための努力」を北朝鮮が踏みにじったと批判する一方、米大統領のコミットメントを「高く評価する」と讃える会見を行ったのとは対照的だった。

 安倍首相は、今日(8月15日)の同大統領との電話会談で、「何よりも北朝鮮にミサイル発射を強行させないことが最も重要との認識で一致した」と若干の軌道修正を行った(ロイター)。

 そして、北朝鮮のキム・ジョンウン朝鮮労働党委員長がグアムへのミサイル攻撃を見合わせると決めたとウォール・ストリート・ジャーナルがようやく報じるに至った。

最優先課題は戦争を始めないこと

 軍事評論家の田岡俊二氏は、「1994年に米国は北朝鮮の核施設を航空攻撃しようと考えたが、在韓米軍は戦争になれば、『最初の90日間で米軍に5万2000人、韓国軍に49万人の死傷者が出る、民間人を含むと死者100万人』との見積もりを出したため、攻撃はあきらめた」(日刊ゲンダイ)とし、この被害見積もりは、今日なら、さらに深刻なものになると、これまでにも機会があるごとに警告を発している。

 戦争を始めさせないことが最優先課題であり、だからこそ、片や世襲三世、片や政治経験無しの政治家に対して、「挑発のチキンレース」を止めさせようとする大人の対応が国際的な潮流だ。

 

 今後を見すえた場合、日本で軌道修正が必要なのは、安倍首相1人だけではなさそうだ。8月10日に行われた閉会中審査(衆議院安全保障委員会)では玉木雄一郎議員が、四国・中国地方はPAC3の空白地帯であるとして対応を求め、小野寺五典防衛大臣が、「一義的には(イージス艦で)撃ち落とせない場合は2段構えとしてPAC3で対応する」と答弁。12日には島根、広島、高知、愛媛に配備された。

国家安全保障会議不在の決定

 この決定は、一野党議員と防衛大臣の質疑がもとで、歴史を踏まえた現状分析や性能分析なしに、拙速に行われたものではないか。

 内閣官房国家安全保障局によれば、「国家安全保障会議の開催状況はウェブサイトの通り」。つまり、国家安全保障会議は7月29日を最後に開かれていない。4大臣会合(内閣総理大臣、外務大臣、防衛大臣、内閣官房長官)すら開いていない。

 米朝の挑発を抑える必要性が議論された上でPAC3の配備が決定された形跡がない。あったとしてもそれを国民は辿ることができない。

PAC3の射程は「高さは十数キロ、範囲は数十キロ」

 配備の事実を垂れ流す報道に対して、PAC3は大気圏を出て再突入する弾道ミサイルには届かないと、政府対応を批判するコメントがSNSでは入り乱れた。また、TVのワイドショーでは、燃料ブースターが落下してくるのを撃ち落とせるという「専門家」も現れた。では、性能を知っているはずの防衛省は何を考えているのか。

 航空幕僚監部の報道官に聞くと、最初は射程さえ言い渋ったが、自衛隊の公開情報を示して聞くと、「高さは十数キロ、射程が数十キロ」だと認めた。さらに突っ込んだ質問をすると、それは統合幕僚監部に聞いて欲しいと述べる。

 統合幕僚監部の報道官とは、概略、次のような問答となった。

Q:小野寺防衛大臣はイージス艦で打ち損ねたものをPAC3で打ち落とすと国会で答弁したが、その答弁は変ではないか。防衛省はどう考えているのか。

統合幕僚監部報道官:具体的にどのアセットを使ってどう運用するかは結論から言うと、回答は差し控えさせていただいている。ただし、大臣を否定することはないと思います。

Q:大臣を否定できないんですよね。

報道官:そうです。そうです。

Q:TVに出ている専門家が切り離されたブースターなどが落ちてくる可能性があり、PAC3は、それやその破片を狙うんだと言う。失敗した弾頭であれブースターの破片であれ、どこに落ちてくるかわからないものを打ち落とすという「専門家」の考えはどう思われるか。

報道官:基本的には破片も含めて適切に対応できるようになっているはず。性能の細部については回答を控えさせていただきます。

Q:それでははなぜPAC3を配備するか分からない。航空幕僚はPAC3の射程は、高さ十数キロ、横数十キロだと。なぜ、大臣はイージス艦で打ち損ねたものをPAC3で打つと言っているのかが分からない。

報道官:例えば、例えばです。グアムに行く途中で、なんらかの不具合で落ちてきたとか、そういうところに対応できるように。

Q:失敗して落ちてきたものは軌道を計算できないじゃないですか。

報道官:ランダムに動くわけではないので。

Q:失敗したものものがですか。

報道官:レーダーとか目標探知機とかついています。

Q:追尾ができると?

報道官:それがどこまでかというのは控えさせていただきます。

 この話を追及すると、やがて抑止力(命中精度)を上げるために、防衛装備にもっと予算をつけようという話にしかならず、「外交」の話には至らない。

 防衛省は2008年の資料「弾道ミサイル防衛」で北朝鮮は「ミサイルを生産しているだけではなく、外貨稼ぎを目的としてそれを輸出していることを、既にはっきりと明らかにしている」(北朝鮮外務省スポークスマン(02年12月))としていた。

 西側諸国の経済制裁にもかかわらず、(都市部のみであったにしても)北朝鮮経済は活況を呈しているとみられる中で(38ノース)、諸国がミサイル防衛競争に予算を割けば割くほど、防衛産業界を利して、朝鮮戦争の終戦は遠のいていく。

 堅実な選択肢は対話であり、日本こそが、「平和協定」と「非核化」交渉に向けた、最も地道な努力を米朝に促すべき存在ではないかと、今日、この日に考えてみることが大切ではないか。

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