菅官房長官、国連特別報告者を「個人」呼ばわり、「質問」に抗議

22日会見で記者に答える菅官房長官(官邸ウェブサイトより)

菅義偉官房長官は、何か勘違いをしているようだ。

5月18日に国連人権理事会の特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏が、共謀罪法案について安倍首相に送った「書簡」について尋ねられ、22日の会見で次のように答えている。

菅官房長官:「特別報告者」という立場ですけども、個人の資格で人権状況の調査報告を行う立場であって、国連の立場を反映するものではない。

菅官房長官:直接説明する機会が得られることもなくですね、公開書簡の形で一方的に発出したんです。さらには当書簡の内容は明らかに不適切なものでありますので、外務省は、強く抗議を行ったということであります。

ところが、菅官房長官の言う「公開書簡」とは、「国連」と「国際連合人権高等弁務官事務所」のレターヘッドで、「内閣総理大臣閣下」と儀礼に則って書かれた丁寧なものだ。

特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏から安倍首相への書簡(5頁にわたっている)
特別報告者ジョセフ・ケナタッチ氏から安倍首相への書簡(5頁にわたっている)

「国連人権理事会の特別報告者」とは、菅官房長官が勘違いしているように、単に「個人の資格」でものを言う専門家ではない。

国連人権理事会に任命され、報告義務を負い、個別テーマまたは個々の国について、人権に関する助言を行う、独立した立場の人権の専門家のことを言う。

ケナタッチ氏はプライバシーの権利に関する特別報告者だ。「プライバシーの権利」は、「世界人権宣言」12条と「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(日本では「自由権規約」と和訳されきた)17条で定義されており、国連人権理事会に報告する任務(マンデート)をケナタッチ氏は果たす立場である。

ケナタッチ氏は、得た情報に基づいて法案についての評価を述べた上で、「早まった判断をするつもりはありません」と断った上で、情報の正確性を確かめるための4つの質問を行っている。つまり、指摘に間違いがあれば正して下さいと質問をしているのだ。それは次のような指摘(要約)だ。

1.法案は監視強化につながるが、新たなプライバシー保護策は導入されない。

2.監視活動の前に令状を採る手続を強化する計画がない。

3.国家安全保障のための監視活動に許可を与える独立機関を法定する計画もなく、重要なチェック体制を設けるかどうかは、監視活動を行う機関の裁量に委ねられている。

4.警察や公安や情報機関の活動が、民主的な社会に準じたものか、または、必要でも妥当でもない程度までプライバシー権を侵害しているかどうかついて懸念がある。この懸念には、GPSや電子機器などの監視手法を警察が裁判所に要請した際の、裁判所の力量も含まれる。

5.警察に容疑者情報を得るための令状を求める広範な機会を法案が与えれば、プライバシー権への影響が懸念される。日本の裁判所は令状要請に容易に応じる傾向があるとされる。2015年に警察が申請した通信傍受の請求はすべて裁判所によって認められた(却下は3%以下)との情報がある。

そして、ケナタッチ氏からの4つの質問(要点)は次のようなものだ。

1.上記の批判の正確性に関して、追加情報および/または見解を下さい。

2.法案の審議状況について情報を下さい。

3.国際人権法の規範および基準と法案との適合性について情報を下さい。

4.市民社会の代表者が法案を検討し意見を述べる機会があるかどうかを含め、公衆参加の機会に関する詳細を下さい。

これは、得た情報をもとに評価し、その正確性を相手に確かめたり、説明や協議する機会を得たりする、双方向の公明正大なプロセスだ。指摘に誤りがあれば正し、日本が批准している自由権規約約17条などに適合していないなら、その助言に沿って日本が法案を正せばよいだけの話だ。「抗議」をする性質のものではない。

ところが、菅官房長は、このプロセスを理解していないのか(外務省が説明をしていないのか)、書簡をまったく読んでいないのか、記者に対して、「抗議を行った」と語気を強めて繰り返した。

外務省は、本当に「抗議」を行ったのか、また、誰に、どのように「抗議」を行ったのか(こうした質問は会見で記者からも出た)、特別報告者の指摘を認めたものもあるのかどうか、会見の内容からは全く不明である。もし、本当に単に「抗議」を行ったのだとしたら、恥ずかしい事件である。

この問題に取り組んでいる海渡雄一弁護士は、この書簡について、「日本政府は、23日にも衆議院で法案を採決する予定と伝えられるが、まず国連からの質問に答え、協議を開始し、そのため衆議院における法案の採決を棚上げにするべきである。そして、国連との対話を通じて、法案の策定作業を一からやり直すべきである。」とFacebookで発信している。

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