原子炉の強度不足問題:JIS規格任せ+調査対象の絞り込みで幕引きか?

田中俊一・原子力規制委員長(2016年11月16日筆者撮影)

原子炉圧力容器の鋼材の強度不足問題について、日仏の対処の仕方は異なっていることが、11月16日、原子力規制委員会への取材で明らかになった。

調査対象を広げ、日本製品の基準超えを発見したフランス

「日本製鋼材の強度不足でフランスの原発停止中! 日本の原子力規制委は何をすべきか?」で既報した事件の発端は、フラマンビル原発3号機(アレバ社)に使われた「クルゾ・フォルジュ」社製の鋼材に、炭素濃度基準を超えたものが発見されたことにあった。

これに対し、フランスの原子力安全局(ASN)は調査対象を広げ、その結果、「日本鋳鍛鋼」が供給した鋼材も、炭素濃度の上限0.22%の規制基準を超えて0.3%超のものがあることが発見された。

つまり、一例を教訓に調査対象を広げ、「上限0.22%」という明解な基準に照らして、書類、非破壊検査、破壊検査と3通りの検査を行っているのが、フランスのやり方だ。

JIS規格任せ

日本はどうなのか。11月16日に行われた原子力規制委員会の田中俊一委員長の定例会見で、炭素濃度の規制基準はあるのか、上限は何%で、それをどのように調べるのかと問うたが、得た回答は驚くべきものだった。

結論から言えば、日本は、JIS規格に丸投げで、今回の事態が判明した後も、その姿勢に大きな変化が見られない。

田中委員長に尋ねた質問要旨と回答、および荒木真一原子力規制企画課長が代わりに答えた回答は次の通りである。

―日本の炭素濃度の規制基準の上限は何%で、それはどのように調べるか?

田中委員長:私が聞いている限りでは、我が国においては特に基準を上回るような、おかしな鋼材は使われていないということまでは、確認していますけども、その評価はいずれきちっと、遠くない時期に規制委員会、規制庁として判断して示したいと思っています。

―フランスでは、基準超えが、破壊検査や非破壊検査で分かったが?

田中委員長:必要があればやりますけれども、必要がないことまでやれないし、稼働しているようなものの検査はそう簡単ではないし、精度もなかなか大変だという議論もありますから、そこはきちんと見ていく必要があると思います。

元々、その製造過程でそういったミルシート(鋼材の品質証明書)的なものが出ているわけですから、それを確認することが、まず最初だと思っています。

――日本の上限は「0.25%」ではないのか?

この質問に、田中委員長は回答せず、金城慎司広報室長が「担当を呼ぶ」と打ち切った。

出典:第4回日仏規制当局間会合の結果報告(1)
出典:第4回日仏規制当局間会合の結果報告(1)

筆者が質問した「0.25%」とは、規制庁がASNに提供した資料にあった「JP Standards for Class-1 Vessel Materials(日本のクラス1原子炉鋼材基準)」(右図)に書かれていた数字だ。

この点を、会見後に金城室長に呼ばれた荒木進一・原子力規制企画課長に尋ねると、「我々が(0.25%で)規制をしているわけではない」と意外な答えが返ってきた。

「では規制庁は何をしているのか」と荒木課長は自問し、JIS規格を元に原子炉メーカーと鋼材のメーカーとが使う鋼材を決定し、規制庁はそれを記した書類を受け取り、「審査はそれでクリアになる」と述べた。検査はその記された鋼材が使われているかを確認するだけで、「我々が使っている数字は、ない」と強調した。

調査対象を鋼材の製造方法で絞り込み

従来はJIS任せだとしても、今回はどうするのだろうか。結論から言えば、原子力規制委員会は、最初から調査対象を絞り込んでいた。

8月24日、 電力会社に対し、フランスで調査対象となっている日本の製造メーカーと鋼材の製造方法の調査を9月2日までに命じた。そして、「鍛造(たんぞう)」で作られた鋼材である場合は、それがJIS規格を上回る炭素濃度を含む可能性について、10月31日までに委員会に報告するよう求めていた。

一体どういうことか。金属材料学が専門の井野博満・東京大学名誉教授に聞くと、鋼材の製造方法には、「鍛造(たんぞう)」と「鋳造(ちゅうぞう)」がある。

炭素は、鋼材がゆっくりと固まるときに、固まった方から抜けて、固まっていない方へ動く性質がある。そして、最後に固まるところが炭素濃度が高くなる。そのどちらの製造過程でも、炭素濃度が偏る「炭素偏析」が起きる可能性がある、と井野教授は語る。

たとえば、鍛造(たんぞう)は、大きいインゴットを作って叩いて延ばして、ゆっくり固まるので、炭素偏析ができやすい。一方、鋳造(ちゅうぞう)は、熱伝導が悪い型を鋳造に使えば、冷え方がゆっくりで、偏析が起こる可能性がある。

だから、実際に炭素濃度が高いかどうかはは、詳細なデータを出させて、検査をしなければ分からないと言い、そこで井野教授は、次の様に規制庁の姿勢を批判する。

「規制庁は、フランスで問題になった日本鋳鍛鋼の鍛造品だけを報告させている。しかし、同じ日本鋳鍛鋼が作る鋳造品を問題にしないのは大局的な見方でない。消極的な態度だと思う」

荒木課長「鍛造という方法でしか起こらない」?!

原子力規制庁「原子炉容器等における製造方法及び製造メーカーの調査結果」(*)
原子力規制庁「原子炉容器等における製造方法及び製造メーカーの調査結果」(*)

ところが、荒木原子力規制企画課長は、16日、「炭素偏析」は「鍛造という方法でしか起こらないですよ」と、筆者に絞り込んだ理由を述べた。

そして、その絞り込みは、規制庁が9月14日の原子力規制委員会に出した資料に現れている(右図)。

それは9月2日までにと電力会社に命じた製造メーカーと製造方法の調査結果をまとめたもので、青く網掛けをしたところが、日本鋳鍛鋼による鍛造(たんぞう)による部材だ。

指示通りなら、10月31日までに報告されたのは、その網掛け部分だけだということになる。現在、原子力規制庁がその取りまとめと評価を行っている。しかし、その姿勢を見る限り、旧原子力安全・保安院のやり方を変えないまま、調査対象を絞り込んで、幕引きを図ろうとしている印象を否めない。

原発を停止させて調査を続行するフランスとは対称的に、日本の原子力規制委員会は、書類だけで「安全」確認をしようとしているのではないか。

鹿児島県知事へGPが要望

なお、この問題を提起している国際環境NGOグリーンピース・ジャパンは、11月16日に鹿児島県庁を訪れ、九州電力の川内原発1、2号機の鋼材について、独自の検証を行うよう知事に求める要請書を原子力安全対策課に手渡したという。

*平成28年9月14日原子力規制委員会資料3「第4回日仏規制当局間会合の結果報告]