甲状腺がん「地域ごとの詳細なデータ分析が必要」と全摘の男性

甲状腺がん全摘手術の退院直後に筆者撮影(2016年8月)

「まさか、自分がなるとは思っていなかった。」そう語った栃木県在住の男性は、話をしていく中で、全摘をした甲状腺がん(乳頭がん)の手術跡を見せてくれた。

2011年4月以降、2015年3月まで10回程度、除染現場や中間貯蔵施設(大熊町)の予定地を含めて福島県を出入りした。マスクなどの防護策は一切行わず、先々で自分がいる空間の線量を測るなどの対応も取らなかった。通常の職場は東京だ。汚染地図を広げて確認すると、居住地はさほど高い地域ではない。近所を測定器で測り、ホットスポットとなっていないかどうかを確かめるようなことも全くせず、隣近所で取れる地場産の野菜を気にせず食してきた。

文科省 2011年10月6日発表資料
文科省 2011年10月6日発表資料

2014年夏、医師である友人が、喉仏の下にもう一つ、喉仏のような出っ張りがあることに「あれ?」と気づいてくれるまで、自分では気がつかなかった。「それは甲状腺ではないか。見てもらった方がいい」と言われて、専門医を訪れた。

摘出手術の結果「悪性」

エコー検査を受けた結果、1×4cmの嚢胞だったが、半年に1回の経過観察を勧められた。痛みもなく大きくもならなかったが、今年1月以降、細胞を取って診てもらうとがんまたはその疑いとなり、8月に摘出手術を受けた。その結果、悪性だと判明した。

手術前には「もし気管支に転移していれば、一緒に取るため穴が開いてしばらく声が出なくなる」、「もし声帯を動かす神経が傷つけば声が出なくなる」、「もし甲状腺の裏に4つコメ粒ぐらいの大きさで着いている副甲状腺4つをうまく残せず、取ってしまうと、骨の生成ができなくなる」など、一連のリスクを告げられ、同意書にサインをしたと言う。

麻酔で5時間の手術。目が覚めたら終わっていた。リンパ腺を切った切り口からジワジワ流れ出る血まじりの体液を、傷口の両脇からホースで受け止める透明のパックを5日間、首からぶら下げていた。転移はなく、声に異常もない。ただ、喉仏の真下のど真ん中だったため、一部を残すことができず全摘となった。

「甲状腺がんは基本的に、取るしかないんですね」と語り、今後、毎日、甲状腺ホルモンの薬を飲むことになった。適量には個人差があり、飲み過ぎると代謝が過剰となり、少なすぎると判断力の低下やむくみが生じるため、適量が分かるまでは量を調整するのだと言う。

この男性の甲状腺がんが果たして被ばくによるものかどうかは、一例ではもちろん分からない。しかし、疫学研究の第一人者である岡山大学の津田敏秀教授は、「栃木在住の方でしたら、濃いプルームが通過したようですので、被ばくによる発がんの可能性が十分にあると思います。チェルノブイリ周辺では、子どもよりも、大人の方の甲状腺がんの増加数の方が大きかったわけですので、すでに増加の始まっている福島県以外の周辺県の、子どもだけでなく、大人における系統的な甲状腺がんの発生データ収集が必須でしょう」と述べる。

全摘手術を受けた男性自身も、「福島県内にとどまらず、子どもはもちろん大人も、健康検査やデータ集積が重要ではないか」と、因果関係がないことを前提で進む帰還ありきの政策に身をもって、疑問を投げかける。

ところが、今行われようとしていることは、その真逆である。9月14日に開かれる福島県の県民健康調査検討委員会で、甲状腺検査の対象者の縮小を視野に入れて議論するのではないかと福島民友が報じている(*)。

それは一体、何故なのか。これまでに示されてきた事実には、検査を縮小すべき判断材料は見えないのである。

甲状腺検査見直し議論へ 県民健康調査検討委、対象者縮小も視野(福島民友、2016年08月08日)

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