東電汚染地域「避難する状況にはない」の根拠を示した「専門家」とは(1)

原子力規制庁、復興庁と市民の支援対象地域を巡る意見交換会(7月29日筆者撮影)

「見えているものは同じなんだと思う。20mSvよりも下がっている。でも1mSvは超えている。では「帰還希望を阻むものではない」と表現するべきであって「避難する状況ではない」ではないと思うんです」

そう声を上げたのは、福島県内で放射線量の高いところから、より低い会津地方に避難中の古川好子さんだ。7月29日に行われた「子ども・被災者支援法」基本方針改定に関する政府・市民意見交換会(主催 FoE Japan)の席上である。

わずか1時間半で説明会終了

ことの発端は7月17日に遡る。都内で行われた「子ども・被災者支援法」に基づく支援策に関する基本方針の改訂案の説明会だ。この日は、浜田昌良復興副大臣を先頭に、復興庁職員が8月8日締切でパブリックコメントにかけている改訂案を説明した。

7月17日被災者生活支援等施策の推進に関する基本方針改定(案)の説明会(東京)
7月17日被災者生活支援等施策の推進に関する基本方針改定(案)の説明会(東京)

政府は年20mSv以上に汚染された地域のみに避難指示を出しているが、事故前は原子炉等規制法に基づく告示で線量限度を「年間1mSv」としていた。「子ども・被災者支援法」は、いわば、その告示と政府指示の透き間を埋める法律で、1~20mSv未満の一定基準以上の地域を「支援対象地域」として、「放射線が人の健康に及ぼす危険について科学的に十分に解明されていないこと等のため」に生活や医療に関する支援を行うというものだ。

基本方針はその支援内容を定めるもので、今回の改訂案の主たる内容は、その支援対象地域が、「避難する状況にない」と明記するというものだ。

7月17日基本方針改訂案の説明資料(筆者撮影)
7月17日基本方針改訂案の説明資料(筆者撮影)

余儀なく自主避難をしている人々によっては重要な変更であるにもかかわらず、これに対する質問は、1人3分に制限、福島県在住者、県外避難者、それ以外の順番で受け付けるとして、わずか1時間半で終了した。

「子ども・被災者支援法」第5条には、こうした変更をする際に、「東京電力原子力事故の影響を受けた地域の住民、当該地域から避難している者等の意見を反映させる」とある。これに反すると怒った参加者が抗議すると、副大臣が退席後に、職員が続けて質問を受けることになった。そこで、重要な事実が判明した。

説明会終了後に規制庁関与が判明

「福島の子どもを守る法律家ネットワーク」の河崎健一郎弁護士が、「避難する状況にない」とした根拠を、「ほとんどの地域が5mSvより下にあるという認識を持たれていいるからか」と質問した時のことである。

副大臣退席後に残って説明した復興庁職員(7月17日筆者撮影)
副大臣退席後に残って説明した復興庁職員(7月17日筆者撮影)

復興庁の佐藤紀明参事官が、「1~3mSv、あるいは1mSv未満が大半であるという認識でございます」と回答。それが復興庁の認識かと再確認されると、「原子力規制庁から『避難する状況にない』ということをいただいております」と回答。ところが、「いつの会議で決まったのか」「文書名は」の更なる問いに、即答ができなかった。しかし、後日、2つの文書が公開された。

説明会前から原子力規制委員会に求めた自主避難者への「科学的反論」

その文書によれば、浜田昌良復興副大臣は、説明会を開催する前から、『避難する状況にない』という文言には「反論」が起きると予測していたらしい。6月24日付けで、原子力規制委員会の田中俊一委員長宛で「自主避難者への科学的反論」を要請していた。そして、翌25日に原子力規制庁がから要望された通りの見解が届いていた。以下がその文書である(マーカー筆者)。

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科学的に思考すれば、問題は、線量が「事故後」と比べて「下がった状態」かの「比較」の問題でははない。健康影響や生活影響があるかどうかの問題である。ところが、健康影響や生活影響には一切触れず、「支援対象地域の縮小・廃止を検討」すべきとの結論ありきで、「専門家から改めて、支援対象地域の線量は、現在、既に避難するような状況ではない旨の見解を確認いただきたい」と要望している。

これに対し回答は、原子力規制委員会に公開の場で諮られることもなく、単に事務局に過ぎない原子力規制庁が「専門家」然として、2つのことを根拠に「避難する必要性のある状況ではない」と結論づけて文書を送っていた。

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一つは空間線量で、必ずしも説明の文言と一致しない3つのURLが示されている。

・航空機モニタリングの結果を示すURL

・「平成25年度東京電力(株)福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質の長期的影響把握手法の確立事業成果報告書」につながるURL

・全国の放射線量測定がモニタリングポストで「毎時マイクロシーベルト」で示してあるURL

それぞれをクリックすると膨大なデータのトップページであり、これを突きつけられて果たして子どもを持つ父母たちが判断できるのだろうかと思わせられる代物である。トップページを見つめて「専門家」を信じなさいといわんばかりである。

二つ目は、市町村が公表した個人線量の測定結果である。それをもとに「一部の地域を除いて、支援対象地域の住民の大部分の年間個人追加被ばく線量(実効線量)は1mSvを下回っている」というが、「一部の地域」がどこで「大部分」とは何を意味するのかは示されていない。

冒頭に示した意見交換会は、この文書について確認を行うものとなった。

(2)に(続く)

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