原子力規制庁「機密性2情報」の流出事件

4月17日、原子力規制庁は「機密性2情報」流出事件の調査結果を明らかにした。経緯を辿ると、情報を流出させた業者のミスの他、秘密にする情報が含まれていないにもかかわらず「機密」扱いをしていた規制庁の体質が明らかになった。

IAEA事業「アジア原子力安全ネットワーク」のウェブ・コンテンツ

事件は、「原子力基礎研修テキストが第三者から自由にダウンロードできる状態となっている」という通報が「規制庁の御意見、御質問の受付メールアドレス宛てに」、あったことから始まっている(原子力規制庁米谷総務課長、3月31日記者ブリーフィング)。

発端は、原子力規制庁が昨年10月に「平成26年度原子力施設等防災対策等委託費(ANSN掲載用教材の作成)事業」を一般競争入札にかけ、エアクレーレン株式会社に発注したことだ。ANSNとは「Asia Nuclear Safety Network(アジア原子力安全ネットワーク)」の略で、国際原子力機関(IAEA)が実施する「東南アジア・太平洋・極東諸国の原子力施設の安全に関する特別拠出金事業」だという。

流出した資料は、旧独立行政法人原子力安全基盤機構や「原子力規制委員会原子力安全人材育成センター」が職員研修で用いた講義資料で、今回の委託事業目的は、それらの文字起こしや英訳で「ANSNのウェブページに掲載」するコンテンツ教材を作成することだった。

パスワードをかけずにクラウドに

米谷総務課長のブリーフィングによれば、この業務を落札したエアクレーレン社が、「受託した英訳の一部のダブルチェックを行ってくださる方を民間が運営するウェブ掲示板を通じて募集した」ことで流出した。同社代表取締役の吉川美鈴さんによれば、3月13日に成果物を納入した後、3月29日になり「今後の業務の参考にするために」クラウドソーシング会社のサイトを利用して別途、業務のごく一部を募集したものだと言う。

その後、エアクレーレン社は翻訳稿の閲覧を希望する問い合わせを受け、相手方と秘密保持契約を結び、パスワードを設定して相手方がファイルを渡すはずが、社員の不注意で、パスワードを設定せず、クラウドソーシング会社の利用者は誰でも閲覧できる状態になり、29日夜に研修資料が外部に流出した。通報をもとに原子力規制庁が3月30日にエアクレーレン社に調査を指示。4月10日にエアクレーレン社が結果を原子力規制庁に報告した。

「機密性2情報」の該当情報なし

それを受け、17日に原子力規制庁が調査結果を発表した。流出資料は「環境省情報セキュリティポリシー」における「機密性2情報」に格付けされてはいたが、「原子力規制庁職員向けの研修用に作成された資料」で「公知の情報であり機密情報を含むものではなかった」という。エアクレーレン社への処分は「指名指定」ではなく、「注意喚起」したとして、幕引きを図った。

しかし、問題が残る。何故、「公知の情報」が「機密性2情報」に指定されていたかである。「機密性2情報」とは「環境省情報セキュリティポリシー」により、「行政事務で取り扱う情報のうち、秘密文書に相当する機密性は要しないが、漏えいにより、国民の権利が侵害され又は行政事務の遂行に支障を及ぼすおそれがある情報」だとされている。

機密性についての格付の定義(環境省情報セキュリティポリシー)
機密性についての格付の定義(環境省情報セキュリティポリシー)

この件を担当する原子力規制庁総務課国際室の小林氏に、今回の流出文書は「機密性2情報」で示される「国民の権利が侵害される」情報だったのか、「行政事務の遂行に支障を及ぼす」情報」だったのかを尋ねると、どちらでもなかったと言う。ではなぜ「機密性2情報」と区分されていたのかと問うと、答えは次の通りである。

「区分は、文書を作成するときの担当者が判断するが、判断根拠の説明を具体的にすることは、文書作成時に求められていない。国民の権利が侵害される、または行政事務の遂行に支障を及ぼす蓋然性があると判断したら指定するが、あたかも情報公開請求を受けたときのように、何ページめの何行目に「機密情報」があると判断することはない。開示請求を受けたら、その手続きの中で判断する」

「環境省情報セキュリティポリシー」を策定した環境省情報セキュリティ委員会担当者に尋ねると、これは環境省内外の情報の取り扱いを定めたもので、情報公開法とも特定秘密保護法とも関係がないという。「機密性3と4情報は外に出してはならない文書、機密性1情報は公表情報だから、行政文書に機密性2情報と分類される資料が多いのは事実」だと述べる。

とりあえず「機密性2情報」指定体質

つまり、情報公開法では、不開示にしても違法ではない情報は以下の情報(総務省資料に加筆)だけだが、今回のように機密性ゼロの情報でも、その文書を作成した担当者の一存で「機密性2情報」と区分されれば、開示請求を受けない限りは秘密扱いされる情報が存在することになる。

(1)個人の識別により個人の権利利益を害する情報(個人情報)

(2)法人の正当な利益を害する情報(法人情報)

(3)国の安全、諸外国との信頼関係等を害する情報(国家安全情報)

(4)公共の安全、秩序維持に支障を及ぼす情報(公共安全情報)

(5)審議・検討等に関する情報で、意思決定の中立性等を不当に害する、不当に国民の間に混乱を生じさせるおそれがある情報(審議検討等情報)

(6)行政機関又は独立行政法人等の事務・事業の適正な遂行に支障を及ぼす情報(事務事業情報)

公文書管理法(2009年制定)では、行政が作成する文書等は「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」であると定められ、特定秘密保護法(2013年制定)では、「その漏えいが我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるもの」を「特定秘密」として指定する。

おざなりに扱ってよい情報(国民共有の知的資源)はないが、今回の「流出」は、「とりあえず秘密」にしておく体質を明らかにした事件である。

「目くじら立てるような話ではない」?

原子力規制委員会の田中俊一委員長はこの件の見解を聞かれて、次のように答えている。

何であんな詰まらないことにこだわるのかわかんないけども、今回でたものは別にクラッシュファイす(秘密にする)ような資料でないんでいいですが、そういう事態が起こらないように注意するっていう意味ではそういうことは必要かと思います。反省材料だと思いますけどもそんなに目くじら立てるような話ではないと、実害があった訳じゃないし。

出典:4月1日の原子力規制委員長定例記者会見

今回は受注企業の小さなミスを奇禍に、国民から情報を預かる原子力規制委員会の姿勢を是正する大切な機会であり、必要とされる「原子力規制委員長」は、「情報公開法」と「公文書管理法」に基づいて、原子力安全に関するすべての情報は国民のものであることを徹底する人物である。

今回問題となった国際業務は、国民から目が届きにくく官庁を通じて税金がばらまかれるよくある事業の一つに過ぎないが、他のアジア諸国に上から目線で教材を提供する前に、原子力規制当局が「公文書とは何か」を学ぶべきであると考えさせられる事件となった。