誤用情報を根拠に放射線影響を含めた健康管理施策案を環境省がパブコメ(上)

専門家会議で挨拶する北島智子環境省環境保健部長(2014年12月18日筆者撮影)

環境省は、東電の福島第一原発から放出された放射線による影響を含めた健康管理の施策案を発表し、1月21日まで国民から意見を募集しているが、根深い問題をはらんでいる。

「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」(座長:長瀧重信・国立大学法人長崎大学名誉教授)による「中間取りまとめ」を踏まえているが、その根拠を辿ると国内外の情報の誤用・濫用が浮き彫りになる。

表層の問題~ゼロ回答

施策案は(1)事故初期における被ばく線量の把握・評価、(2)研究組織構築による自治体や住民への情報提供、3)福島県の支援、4)リスクコミュニケーションの4点からなる。

(1)は対象が「事故初期」だけである。汚染地域で低線量の被ばくが継続していることは見ていない。

(2)はがんについては全国がん登録等、がん以外の疾患は既存のデータベースで福島県と近隣県での動向を把握するとしているが、その根拠は放射線の影響が統計的に「検出できる可能性は低い」「遺伝性影響の増加が識別されるとは予測されない」との専門家会議の判断にある。

(3)は国が782億円の交付金を拠出した「福島県民健康管理基金」などの支援で福島県が行っている「県民健康調査」の継続を示す。専門家会議に求められていたのは、福島県境を越えた汚染地域の子どもや妊婦への医療支援や生涯にわたる健康診断など住民支援策だったが、それはゼロ回答である。

(4)は福島県と近隣県で、各地域の状況や自治体としての方向性を尊重して「地域のニーズにあったリスクコミュニケーション」を推進するというものだ。「リスクコミュニケーション」は、地域住民を含めて正確な情報を共有することから始まるが、議員立法「原発事故子ども・被災者支援法」13条の行方(上)(下)で指摘したように、傍聴まで拒んだ環境省が何をどう推進するのか。

深層の問題~国内外情報の誤用

施策案は、放射性物質の影響が「低い」「予測されない」との専門家会議の「中間取りまとめ」が根拠だが、問題はその根拠が、目の前で小児甲状腺がんを発症している患者ではなく、被ばく線量の推計と、世界保健機構(WHO)や原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)報告書の都合の良いつまみ食いにあることだ。

■0.04μSv/h以下なら問題はないのか?

専門家会議の「中間取りまとめ」の出発点の一つは、原子力安全委員会(当時)が事故から半月も経った2011年3月24日~30日に原子力災害対策本部に測定させた飯舘村、川俣町、いわき市の小児甲状腺の測定値1080人分のデータにある。その99%の子どもの甲状腺被ばくを示す線量が0.04μSv/h以下であるとの判断から始まっている(中間取りまとめ12頁)。ところがこの値を巡っては疑問視すべき点がある。

一つは原子力安全委員会が(放射線医学総合研究所の見解を目安に)1歳児の100mSv相当(0.2μSv/h)以下であれば問題はないと考え、中間取りまとめも同様の立場を取っていることである。

「0.04μSv/h」とは1歳児の甲状腺の被ばく線量に単純に換算すれば20mSvとなり、(下)で後述するように、放射線防護の観点からはけして100mSv相当(0.2μSv/h)以下だから低いと見過ごせる値ではない。中間取りまとめでは、福島県内における他の推計も他県でも、甲状腺被ばくについては数mSvから数十mSvに過ぎないと判断し、それが環境省施策案の実質の現状維持(ゼロ回答)につながっている。

■0.04μSv/hは本当か?

もう一つは原子力安全委員会が当時、空間の線量が0.2μSv/hよりも低いところを探して測定するよう指示し、測定器が示した「実測値」から放射性物質に汚染されている空間の線量(バックグラウンド)を除いた値を「正味値」とするよう指示したことに起因する。

中間取りまとめでは何をどう差し引いたかに関する記述が不十分である。しかし実際の測定では、100mSv相当(0.2μSv/h)以上の被ばくを問題視しながら、実際には空間線量が0.2μSv/hよりも高線量であるが故に「被ばく線量はバックグラウンドと区別がつかず」非検出となった例や、0.2μSv/hを越えた地域で、0.2μSv/hが単純に差し引かれて「正味値」とされた例があることが明らかになっている。

また、当初、0.2μSv/h以上を問題とすべきところ、1歳児で1000mSvに相当してしまう「2μSv/h」を問題とないとする指示(資料14~15頁)に従って、「2μSv/h」を基準に「問題となるレベルではない」と報告した例もある。後日、指示は「2μSv/h」から「0.2μSv/h」に変更されはした。原因は甲状腺個別の被ばく線量を計算すべきところを違う計算を行ったためだった。

■原子力安全委は「適切でない」と指示

そのためか、原子力安全委員会自身が、これは簡易測定だから「測定値から被ばく線量に換算したり、健康影響やリスク等を評価したりすることは適切でない」と指示していた。そして、この資料(2013年11月11日第1回会議資料2-13~4頁)は専門家会議に提出されていたのだが、その指示に反して、専門家会議はそれを根拠にした。使った理由は「これしかない」という理由である。チェルノブイリでさえ、これに相当するデータが40万人分収集されたのに対し、今となっては原子力安全委員会の無策としかいいようがないが、日本ではたった1080人分しかデータを取らなかったのだ。

第6回会議で、独立行政法人日本原子力開発機構の本間敏充・安全研究センター長が「ベストなデータは実測データに基づくというのが基本」と述べ、遠藤啓吾・京都医療科学大学学長が「放射線測定を実際にやっている立場からすると、実測値にかなうものはない」と呼応。これに対して、春日文子・日本学術会議副会長が「教科書的に実測データがベストだというふうに位置づけられている」ことは間違いないが、「実測データはやはり数もまた地域も限られているという限界があります。それなりに不確実性があります」と反論した。

これを長瀧座長が「実測値にまさるものはないというお話がございまして」から始まり、「実測データがこれしかないというのは、我々もう本当に一生懸命議論して大事なデータだと思いますので、ここで可能な限りまとめたい」と採用したのである。

■過小評価との批判

原子力安全委員会の警告とは別に、この1080人分のデータは過小評価であると、岩波書店『科学』2014年4月号、5月号で批判され、記事そのもの (2013年5月20日第6回会議参考資料2/27~47頁)も会議に提出されていた。実際、原子力安全委員会が受け取った以下の具体的なデータの場合、0.04μSv/hとは「着衣表面」についた放射性物質の値などをさっ引いた「解析結果」であり、元々の実測値はすべて本来は問題とされるべき0.2μSv/hを越えていた。

出典「小児甲状腺被ばく調査に関する経緯について」(原子力安全委員会)
出典「小児甲状腺被ばく調査に関する経緯について」(原子力安全委員会)

『科学』の記事は、原子力安全委員会(当時)の説明「小児甲状腺被ばく調査に関する経緯について」では測定が行われた場所の空間線量が、飯舘村の会場では0.1μSv/h、川俣町で0.07μSv/h以上、いわき市では不明とされていたことも踏まえ、解析より過小評価になる要因をさまざま指摘したものであり、過小評価ではないと言うのであれば、専門家会議はこれを議論し、論破すべきだった。長瀧座長の言うようにそれが「大事なデータ」で、本間氏や遠藤氏が言うように実測値が基本なら、実測値で議論すべきであった。ところが、行われた議論は、実測データを基本とすべきという原則論のみで、中間取りまとめで扱ったのも「0.04μSv/h」だった。

■小保方晴子さんも顔負け 消えた自然退縮の報告

情報は誤用にとどまらない。事実の捏造さえ行われていた。第14回会議に提出された中間取りまとめ案には、2つもの参考文献付きで以下のような記述がなされていた。ところが、この一文については、会議終了間際になり、遠藤氏から削除要請があった。理由は、「自然退縮の報告は極めて少ない。甲状腺がんの場合は悪性リンパ腫ではあるが稀。この文献をきちんと読み直したが、そのことに触れていない」というものだ(YouTube画像25分~31分)

小児甲状腺がんの自然史は未だ明らかではなく、自然退縮の報告例もある。

出典:第14回会議に提出された「中間取りまとめ案」26頁

それでも長瀧座長は福島で見つかったのう胞には「消えた」例があったのではないかと自然退縮こだわった。阿部正文・福島県立医学大学副学長から「がんかどうか分からない」と否定されて、引き下がり、自然退縮の報告のくだりは参考文献ともども消えた。小保方晴子さんも顔負けの事実の捏造ではないか。阿部氏からは「自然史は分かっていない」のは事実との指摘があり、以下の一文は残っている。

小児甲状腺がんの自然史は未だ明らかではない 。

出典:専門家会議「中間取りまとめ」26頁

「小児甲状腺がんの自然史は明らかでない」。この一文が出発点でありながら、「統計的有意差をもって変化が検出できる可能性は低い」「遺伝性影響の増加が識別されるとは予測されない」との結論は何が根拠なのか。中間取りまとめで冒頭から頻繁に活用されているWHOやUNSCEARの報告書に立ち返ると、そこにも愕然とする事実がある。

*読者からの貴重なご指摘を受け、1月17日に間違っていた箇所を訂正しましたが、18日により分かりやすい記述に再構成して加筆訂正しました。御礼と共にお詫び致します。

誤用情報を根拠に放射線影響を含めた健康管理施策案を環境省がパブコメ(下)へ続く