議員立法「原発事故子ども・被災者支援法」13条の行方(上)

環境省専門家会議について要請を行った住民団体と有識者(筆者撮影)

12月18日、「原発事故子ども・被災者支援法」に基づいて環境省に設置された「東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う住民の健康管理のあり方に関する専門家会議」(=専門家会議)の進め方を是正するよう望月義夫環境大臣らに要請したと、「放射線からこどもを守ろう関東ネット」、「NPO法人子ども全国ネット」「FoE Japan」など27団体や有識者らが共同で記者会見を行った。

この会見は後述する「傍聴者締め出し問題」が契機となったが、指摘された問題は次のような専門家会議のあり方そのものである。

出典 原子力規制委第1回帰還に向けた安全・安心対策に関する検討チーム2013年9月17日資料
出典 原子力規制委第1回帰還に向けた安全・安心対策に関する検討チーム2013年9月17日資料

吉田由布子さん(「チェルノブイリ被害調査・救援」女性ネットワーク事務局長)は、放射性物質汚染対処特別措置法に基づいて年間1~20mSvで汚染された地域に指定された「汚染状況重点調査地域(第32条)」(左図)を示し、それらの地域と福島の県境は一致していないと指摘した。

しかし「専門家会議では、福島県内と県外を比較しようとして、『県内でそれほど高くはない。ましてや県外はさらに低い』という論調で進んでいるが、支援のあり方について県境で区別することに、科学的な理由はない」と指摘した。

被害当事者へのヒアリングを行っていない

国会事故調委員会で委員も務めた崎山比早子・元放射線医学総合研究所主任研究官/医学博士(下の写真右)は「環境省も東電も、原発は安心・安全といって政策を進めてきたが、安全でも安心でもなかった。事故が起こらなければ正常な生活ができていた被災者の救済という意味で「原発事故子ども・被災者支援」はやるべきものだが(略)、交渉し、要求する方が不当な要求をするように退けられている」と指摘した。

チェルノブイリ被害に詳しい吉田由布子さん(中央)
チェルノブイリ被害に詳しい吉田由布子さん(中央)

崎山さんは、第6回専門家会議で発言機会のあった甲斐倫明・大分県立看護科学大学教授が、ICRP(国際放射線防護委員会)について「意思決定の過程は透明化をし、情報公開していくということは、どうしても必要で(略)、計画の策定のときに、いろんな利害関係者などのステークホルダーも関与して判断を支援していくと、判断の上で関わっていくということが望ましいということを勧告してまいった」と発言したこと評価し、それでも専門家会議が「被災者の声を無視している」と批判した。

汚染状況重点調査地域について保護者らが共同で調査作成した土壌汚染マップ
汚染状況重点調査地域について保護者らが共同で調査作成した土壌汚染マップ

この点をさらに強調したのは、「放射能からこどもを守ろう関東ネット」共同代表の木本さゆりさん達だ。同ネットは千葉、埼玉、茨城の保護者ら作った40団体の集まりで、汚染された17市町村の土壌を環境省が行うやり方で採取し、その結果を2012年に発表した。

結果は見ての通り、汚染土壌は1平方メートルあたり4万ベクレル以下(薄黄色)から15万ベクレルまで、まばらに点在する。木本さんは、「この地域は汚染状況重点調査地域の指定地域だが、実際に土を採ると、文部科学省の航空モニタリングとは違う」と言う。

木本さんは、毎日新聞でも1立法メートルあたりのセシウム濃度が、2011年3月15日から16日にかけては福島市が45.5ベクレルだったときに取手市は130ベクレル、柏市は93ベクレル、20日から21日にかけては福島市が104ベクレル、取手市は497ベクレル、柏市は319ベクレルの高濃度の放射性プルームが通過したとの報道(「東日本大震災:福島第1原発事故 東北・関東、1週間後にも放射性雲 セシウム高濃度」毎日新聞 2014年9月5日 東京夕刊参考)があり、「そういったところからも福島県内、県外で分けるのは科学的ではないと私達は思っています。3年半経って調べられない地域がある中で、健康調査の必要がないという結論を出すのは早過ぎる」と汚染地域の声を聴かずに進んできた専門家会議の議論の行方を懸念した。

「放射線からこどもを守ろう関東ネット」の木本さゆりさん(左)と稲垣芳さん(右)
「放射線からこどもを守ろう関東ネット」の木本さゆりさん(左)と稲垣芳さん(右)

独自に始めた汚染状況重点調査地域でのエコー検査

汚染状況重点調査地域に暮らす保護者たちは自分の子どもに将来何が起きるのかを心配し、「私達はなんども環境省や復興庁に対して『原発事故子ども・被災者支援法で健診の支援をしていただきたい』、『福島県外でも検査が必要だ』と訴えてきたが、聞き入れていただけなかった」と木本さんは言う。そこで、市民でカンパを募って「関東子ども健康調査支援基金」を作り、汚染状況重点調査地域に指定された地域で月1回、希望者をに甲状腺のエコー検査を始めている。1回で150人程度を募集するが毎回満員となり、これまでに延べ2500人が検査を受けている。

専門家会議の傍聴を続けてきたFoE Japanの満田夏花さん(冒頭写真左)は「今回の専門家会議では、一番期待されていた健診のあり方、医療費の減免について、ほとんど議論されていないことを残念に思っている。今後、省庁横断型に新たな枠組みを作って、きちんと当事者の意見を入れ、現在の福島県の県民健康調査で明らかになった甲状腺ガンの発症率や個々の症例をきちんと分析しながら健診のあり方についてきちんと議論していただきたい」と語っている。

傍聴者締め出しの発端

冒頭に述べたように、この会見は専門家会議の「傍聴者締め出し問題」が契機である。その発端は第13回会議にある。会議中、「福島県外の被ばく量は低い」「一般的には放射能は、離れて行くほど低くなる、これが常識」との委員発言に、傍聴席から「非科学的だ」などの不規則発言が上がった。これに当該の発言をした丹羽太貫(公立大学法人福島県立医科大学 理事長付特命教授委員)が突如として立ち上がり「うるさいから、黙れよ、オマエ!」と応酬して、審議が休憩に入る場面があった。

これを理由に傍聴者全員を締め出すのは「過剰反応だ」(満田さん)、「傍聴には汚染状況重点調査地域になっている自治体の職員も来て見守っていた。その方たちさえもシャットアウトされるのはあるまじきこと」(木本さん)、また崎山さんは「単に傍聴するだけで満足することではない。だって被害者なんですから。当事者を横に置いて、専門家といってもどういう専門家なのか」と怒りを露わにした。

この専門家会議は、福島第一原発から放出された放射性物質が福島県内外に拡散し、被災者支援の必要性が生じているとして国会が議員立法で2012年7月に定めた「原発事故子ども・被災者支援法」の13条の施策等を検討するために設置された専門家会議だった。

その14条には「被災者の意見を反映し」とあるが、なぜ彼らを締め出すことになったのか。議員立法「原発事故子ども・被災者支援法」13条の行方(下)では、そもそもこれがどのような政策であり、専門家会議はどのように行われたのかを辿ることにする。