「コロナより家を追われるのが怖い」 仕事がなくなった高学歴ヌードモデルの半生

部屋いっぱいの“宝”に囲まれた谷口さん(筆者撮影)

「コロナは家にいれば安心だけど、今、お客さんがいなくなり、家を奪われるのが怖い」

 そう最近の状況を明かすのは、都心の分譲マンションに住むヌードモデルの谷口佳子さん(38歳)。現在、年金生活中の70歳代の父親と2人で暮らしている。ただ、父娘はそれぞれ部屋にこもりきりで、別々の生活。お互いに顔を合わすことがなく、父親がどのような日々を送っているのかもわからない。

 谷口さんは、早稲田大学に在学中からヌードモデルや援助交際などで生計を立てていたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって仕事がまったくなくなった。定収入も貯金もなく、今は月6万数千円の障害年金で辛うじて生活しているという。

「モデルの仕事は、ネットの掲示板を通じてお誘いが来て、カメラを持った人に私の裸体を撮影させること。後半、カメラの人が“まったりしましょう”と寄ってくる。3時間で2万5千円くらい」(谷口さん)

 しかし、仕事の性質上、領収書や契約書があるわけではなく、口約束の場合もある。雇用関係はないので失業手当や休業手当の対象にはならないし、個人事業者向けの持続化給付金や特別貸付制度などの救済も受けられない。収入を証明できるものが何もない以上、申請してもダメだろうと諦めている。

「元々、体が弱くて、雇われない生き方をずっとしてきたから、今さら雇われて働くのはムリだと思いました」(谷口さん)

 谷口さんは、これまでも自殺未遂をしてきて、いつかは死ぬんだろうなと思ってきた。だから、コロナが怖いとは思わない。ただ、地震などで家を追われることになったら、新たな住まいを確保できるお金もなく、避難所に行くことになったら困るという。

東大を目指して頑張った日々

「8050問題は、他人事ではない。行政に頼ったこともありますが、“今まで何をしてきましたか?”と聞かれ、“ヌードモデルをしてきました”と正直に答えることはできませんでした」

 

 1年半前、そんなメールを送ってくれた谷口さんに会うため、筆者が彼女のマンションの自室を訪ねたのは、2018年の年の瀬が押し迫った日だった。

 大きな数体の鎧や人形、ぬいぐるみなど、アンティークな置物の“宝”に囲まれた部屋の床は、足の踏み場のないくらいに細々とした物で散らかっている。そんな“城”に住む彼女は、コスロリ風の普段着姿。炬燵に座って、オルゴールのネジを巻くと、懐かしい感じの音色が流れてきた。

 そもそも定職に就くことができなかったのは、高校生のときに具合を悪くしたのがきっかけだったという。

 

 母親の教育は厳しかった。名門の中高一貫校時代は、朝起きると勉強し、部活の朝練に行った後、授業を受けた。放課後はまた部活に励み、家に帰るとピアノの練習が待っている。

 親からもらうお小遣いが少なかったため、昼食代を削って参考書を買った。そんな過酷な日々だった。

 授業中、クラっと激しい眠りが来て、体がだるくて仕方がなかった。それでも、親を見返してやろうと思って、東京大学を目指して一生懸命頑張った。

「学校に、行きたくない」

 母親に、何度も相談した。しかし、

「いい学校なんだから、行きなさい」

 と休ませてもらえず、体調が悪いことも理解してもらえなかった。

「親は大学を卒業したら、一流企業に行くものだと思っていたらしいです。でも、私はそれどころではなく、すごい不安に苛まされていました」

 谷口さんが医療機関で「ナルコレプシー」と診断されたのは、ずっと後のことだ。

親は、子供にもっとお小遣いを

  早稲田大学に入学後も、東大を受け直すため、バイトをして授業料を稼いだ。しかし、本人は「頑張っている」のに怒られて辞めさせられる繰り返し。ついに大学3年のとき、東大受験を諦めた。

「これ以上、自分が働きますと言うと、会社や同僚に迷惑がかかる。“もっと早くやって”とか、“これだけやって”とか言われて、一生懸命やっても言われたとおりにできないんです」(谷口さん)

 そのときから吹っ切れたように、求人誌で見つけたSMコンパニオンの仕事を始めた。職場は「SMバー」。自分が相手を責めるプレーだけで、本番はない。4時間働いても2000円ほどにしかならなかったが、そこに行くと、なぜか心が落ち着いた。母親からはお金を与えられない生活を送ってきたから、文句も言わなかった。

「ひきこもってる子は、お小遣いが驚くほど少ないと思います。親は、子供にもっとお小遣いを与えないといけない」(谷口さん)

 ヌードモデルの仕事は、ネット上の掲示板を通じて、お誘いが来た。

「高校時代に無理をしているので、大人になっていくら休んでも、体力は戻らないというのが、複数の医師に相談した見解です。ヌードモデルは、少ない体の負担でできる仕事でした」(谷口さん)

 大学を卒業してからも、コンスタントに仕事が入ってきた。

「何でこんな仕事をしているのか、私にもわかんない。とにかく、生きていくために、ヌードモデルになったんです」(谷口さん)

 親名義のマンションに住んでいることもあり、親戚から「あなた、お父さんに養ってもらってんでしょ?」と言われた。しかし、冷蔵庫も洗濯機も自分で買っている。何か違うと思った。

 一昨年、谷口さんは役所に将来のことを相談し、2か月の仕事を与えられたが、その途中、突発性難聴で倒れて入院。結局、給料より入院費のほうが高くついた。

「ヌードモデルや援助交際といっても、頑張ればかなりの収入になるから、うちは大人のひきこもりじゃないと言いたいところだったのですが…。父に入院したときの保障金を出してもらったので、やはり、うちも予備軍かなと思うところがあるんです」(谷口さん)

 谷口さんは現在、周囲との交流はない。同居する父親とも、共用の炊飯器だけのつながりだという。

「私のような、ひきこもり未満は多いのかもしれない」という彼女は、金銭面を父親に頼りつつ、これからどんな努力をすればいいのか、模索を続けている。