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【築地移転問題】五輪優先で食の安全は軽視?豊洲新市場は「汚染区域」のまま2016年11月上旬に開場か

池上正樹心と街を追うジャーナリスト

東京都は、築地市場(中央区)の移転先として、豊洲(江東区)の新市場を2016年11月上旬に開場することを正式に発表しました。

12月17日、都が業界団体代表とつくる「新市場建設協議会」で合意したものです。

豊洲移転か築地再整備かを巡り、15年以上にわたって市場を大きく揺るがした問題の割には、実にあっさりした“結末”に見えました。

この日、都の新市場整備部側が説明したのは、「2020年の東京五輪の開催に間に合うよう、築地市場内に予定されている環状2号線の工事を終えるためには、17年4月までに市場の解体を終える必要がある」などの理由でした。

これに対し、卸売業者協会の会長は「いきなり最繁忙期の年末を迎えるのはとても無理というのが、業界内部の意見の大勢。環状2号線の道路工事にはギリギリの日程であり、都の五輪を優先して賛成するが、物流をどうするのかなどの課題が多すぎて、まだ先が見えない。引っ越しできないという事態が起きないよう、都が全力を注入できて初めて開場日が実際に権威づけられる」と、賛成するにあたって注文を付けました。

業界団体代表と都の幹部で構成される「新市場建設協議会」(12月17日)
業界団体代表と都の幹部で構成される「新市場建設協議会」(12月17日)

議題として配布された資料は、<豊洲新市場開場時期:平成28年11月上旬>とだけ記された1枚のみ。協議会は「異議なし」の一言で、20分余りで閉会しました。

終了後、傍聴席からは「(地下水から)毒が出たらどうすんだ!」「五輪と市場の安全のどっちが大切なんですか?」などの怒号が飛び交う異様な雰囲気でした。

この日の協議会には一切話題は出ませんでしたが、そもそも豊洲の新市場予定地は、ガス製造工場跡地です。土壌や地下水には、発がん性物質のベンゼンやシアン化合物で高濃度に汚染されていたことから、食の安全・安心を心配する市場の仲卸業者や消費者を中心に豊洲移転反対運動が続いてきました。

そこで、都は先月27日、すべての土壌汚染対策工事を完了したと発表しましたhttp://bylines.news.yahoo.co.jp/masakiikegami/20141130-00041086/

ところが、土壌汚染対策法(土対法)によれば、対策工事後に地下水モニタリングを2年間行って、汚染が除去されたことを確認できなければ、“安全宣言”の前提ともなる土対法上の「汚染区域」の指定が解除されません。

豊洲予定地では、先月から土対法上の地下水モニタリングがスタートしたため、2年の経過を見て「汚染区域」の指定が解除できるのは、早くても16年の11月となるはずです。

都の担当者に何度も尋ねてみましたが、

「開場時期とモニタリングは、基本的にはリンクしないものだと思ってます」

という意外な見解を繰り返したのでした。

つまり、どう見ても、新市場は「汚染区域」指定のまま開場に踏み切ることになりそうなのです。

しかも、モニタリング中に汚染が見つかった場合、除去した後、またそこから新たに2年間のモニタリングが必要になるのです。

汚染が出た場合の、引っ越しスケジュールへの影響について聞いてみると、担当者は“都の立場”をこう苦しげに説明していました。

「基本的には出ないものだと思っている。引っ越しスケジュールに関係あるかないかは、出てみないとわからない。いまの段階では、粛々と進めていく」

迫るリミットに、もう「突っ込むしかない」という特攻隊のようです。

2020年の東京五輪を優先するあまり、「食の安心・安全」を守るはずのルールがないがしろにされ、市場の業者が無理難題を押し付けられる。現場の担当者は問題を十分理解した上で、板挟みになっているのではないでしょうか。

土対法を管轄する環境省にも訊いてみました。

土壌環境課によると、汚染の除去が終わったときから2年間のモニタリングを行い、結果は事業者が都道府県に報告する。その内容を確認して、区域の事由がなくなったとなれば、知事が解除をすることになるが、報告から公示までの期間は自治体によって違ってくる、ということでした。

一方、卸売市場法を管轄する農水省の卸売市場室は、もし汚染区域のまま申請が来た場合でも、市場の開場認可を下すのでしょうか。

「卸売市場法に、そこは明記されているわけではありません。卸売市場として適切な場所に設置されているかどうかという観点から、判断させて頂きます。いまの段階では、そういう(汚染区域が解除されないままの)ものかもしれませんが、申請が出てきた段階で判断したいと思っています」

食を扱う築地市場の移転問題がここまで紛糾した最大の要因は、土壌汚染とそれをうやむやにして進めようとする都の対応にもありました。

あまり同業のことを言いたくはありませんが、今回の開場時期の各社ニュースを把握する限り、この2年間地下水モニタリングのことに触れたマスメディアはほとんどありませんでした。また、協議会後の記者会見も設定されていませんでした。私が確認できたのは、朝日新聞が簡単に「傍聴席では、新市場の土壌は汚染されてるなどとして移転反対の声があった」ことを伝えていたものだけです。本来は、土壌汚染問題がうやむやにされていないかどうか、厳しくチェックし続けるのは、マスメディアの役目ではないでしょうか。

このままでは、東京五輪優先のあおりを受けて、新市場は「汚染区域」のまま開場される可能性が高くなってきてしまいました。

心と街を追うジャーナリスト

通信社などの勤務を経てジャーナリスト。KHJ全国ひきこもり家族会連合会副理事長。25年以上にわたり数千人の「ひきこもり」本人の話を聴いてきた。「ひきこもりフューチャーセッション庵-IORI-」の設立メンバー。江戸川区ひきこもりサポート協議会副座長、港区ひきこもり支援調整会議委員、厚労省ひきこもり広報事業企画検討委員会委員等を務める。著書『ルポ「8050問題」』『ルポ ひきこもり未満』『大人のひきこもり』『ふたたび、ここから~東日本大震災・石巻の人たちの50日間』など多数。『ひきこもり先生』『こもりびと』などのNHKドラマの監修も務める。テレビやラジオにも多数出演。全国各地の行政機関などで講演

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