【築地移転問題】新市場予定地の対策工事完了発表で、汚染の指定区域解除の話はどこへ行ったのか?

東京都が築地市場の移転先に決めた江東区豊洲の新市場予定地は、ガス製造工場跡地だった。土壌や地下水には、発がん性物質のベンゼンやシアン化合物などが残る汚染の実態が次々に明るみになり、食料品を扱う築地市場の移転問題をここまで大きくした。

東京都は2011年8月から、それまでの「土壌汚染対策等に関する専門家会議」の提言を受け、土壌汚染対策工事を進めてきた。そして、今年11月27日、有識者で構成する「第18回技術会議」を開き、すべての街区において10月末に「提言に基づいた全ての土壌汚染対策工事が確実に完了した」と発表した。同時に、今後は「地下水管理システム等により、継続して市場用地の安全性を確認し、都民や市場関係者の安心に資する」としている。

一般紙やテレビのマスメディアも、こうしたほぼ都側の発表の範囲内で報じていた。

しかし移転問題の障壁は、工事完了によって、すべて取り除かれたことになるのだろうか?

11月27日、都庁で行われた技術会議で挨拶する新座長の矢木氏
11月27日、都庁で行われた技術会議で挨拶する新座長の矢木氏

この「汚染除去完了」の発表には重要な視点が抜けていた。土壌汚染対策法だ。土対法によれば、対策工事後に汚染指定区域の解除に必要な2年間の地下水モニタリングを行って、地下水が汚染されていないかどうかの経過を見守ることになっている。豊洲予定地でも、これから2年間の観測を経て、本当に汚染が除去されたことが確認されて初めて、土対法上の「汚染区域」の指定が解除される。

にもかかわらず、この日、技術会議で配布された資料の中には、地下水位や水質を確認する井戸を備えた「地下水管理システム」についての華々しい報告はあったものの、それらとは別に11月から始まっている、土壌対策後に行われる土対法上の「2年間(地下水)モニタリング」の井戸についての記述は一切見当たらない。

この日の会議では、これまで座長を務めてきた原島文雄・首都大学東京学長が辞任し、新たな座長に、矢木修身東京大学名誉教授が就いたことも発表され、矢木座長は「日本の最先端の技術を組み合わせて、世界に類を見ない対策をとった」と胸を張った。

そんな節目の日であったはずなのに、会議後の座長らの記者会見は、なぜかセッティングされていなかった。気づいたときには、新座長は職員らに誘導され、別の出入り口からそそくさと退出。仕方なく、会場にいた都の担当課長2人への10人余りの記者による囲み取材となった。

筆者:モニタリング観測井戸は(報告資料に記されている地下水位観測井戸の)21カ所ですべてですか?

課長:土壌汚染対策法上の2年間モニタリングについては、別途の井戸で確認していきます。全街区で201か所です

筆者:これから設置されるのですか?

課長:すでに設置していて、11月から採水を始めました

筆者:モニタリングの結果はいつ頃出るのですか?

課長:採水が終わったところで順次取りまとめて、機会をとらえて(協議会等で)情報提供させて頂きたい

筆者:2年間のモニタリングの結果を得ないで新市場を開場することもあり得るのでしょうか?

課長:開場時期については今、業界の方々と調整させて頂いています

筆者:(モニタリングの結果を得ないで新市場を開場する)可能性があるということですか?

課長:まだ調整させて頂いているところなので……

筆者:地下水のモニタリングで汚染が出た場合、どのような対策をとるのですか?

課長:出た濃度によって対策方法も変わってくる。専門家に知見を頂きながら検討してまいります

別途、201本のモニタリング観測井戸が存在していることは、質問して初めてわかった。

そして、こうした2年間の地下水モニタリングの経過を見ないで、つまり、汚染の指定区域解除を待たないで、農水省に開場認可を求めることもあり得るのか、結局、はっきりしなかった。

筆者が独自に入手した新市場予定地の地下水モニタリング観測井戸201カ所の設置箇所
筆者が独自に入手した新市場予定地の地下水モニタリング観測井戸201カ所の設置箇所

ちなみに、市場の人たちが求めている「安全・安心」にこだわり、「安全宣言」の前提になる汚染区域の指定解除を目指したスケジュールで行った場合、最短でも2016年11月にモニタリングの結果が出ることになる。新市場の開場時期は、それ以降にずれ込むことも考えられる。そうなると、東京五輪をにらんで工事中の現在の築地市場を突っ切る予定の環状2号線の道路工事に影響が出てくるだろう。

この後、なぜ土対法上の地下水モニタリングの観測井戸のことが資料に載っていないのかを担当課長に尋ねたところ、「技術会議でご提言頂いた内容を確認して頂く場として捉えていますので…」と説明した。、

さらに、都によると、これまで座長を務めてきた原島文雄・首都大学東京学長が委員を辞めた理由は、「学長業に専念したい」と申し入れがあったという。

もう1つ、重要な視点がある。

これまでの土壌汚染対策工事の予算は、今年度までに762億円に上ることが、囲み取材の中で明らかにされたのだ。

2007年、豊洲新市場予定地で都の専門家会議が行った掘削調査の様子
2007年、豊洲新市場予定地で都の専門家会議が行った掘削調査の様子

都が専門家会議から土壌汚染対策の提言を受けた08年当時に起きた、「築地再整備に比べると、汚染対策でコストが割高になる」との批判に、石原慎太郎都知事が、「この技法なら586億円のコストで安く済む」と胸を張っていたのは、いったい何だったのか。

実は、技術会議の中でも、根本祐二委員(東洋大学経済学部教授)から「経済性に優れたと聞いていたが、事後の検証は?」と質問するシーンがあった。しかし、都側は「今後考えたい」と答えただけで、それ以上のやりとりはなかった。

土対法に基づく2年間モニタリングのことや、経済面における汚染対策費用をめぐるプロセスを検証するうえでも、27日の技術会議側の会見は、重要だったはずだ。しかし、会見が設定されなかった。このことについて、都庁記者クラブの幹事社に尋ねると、「都から申し入れがなかったので……」と説明する。事情はよくわからないが、筆者が把握する限り、2年間モニタリングのことに報道で触れているマスメディアは見当たらなかった。

なお、この日の都の汚染対策工事完了の「確認」に関わった技術会議の出席者は、次の通り。

矢木修身座長(東京大学・名誉教授)

小橋秀俊委員(国交省国土技術総合研究所 防災メンテナンス基盤研究センター・建設マネジメント研究官)

安田進委員(東京電機大学理工学部・教授)

川田誠一委員(産業技術大学院大学産業技術研究科長・教授)

根本祐二委員(東洋大学経済学部・教授)

※長谷川猛委員(東京都環境公社・非常勤理事)は欠席