新iPhone直前、評価分かれるアップルのこれから

アップルが9月10日に製品発表イベントを開催すると伝えられ、ここ数年と同様に様々な憶測が乱れ飛んでいる。興味深いのは、新iPhoneの発売によってアップルの評価が高まるという論と、現在かかえる問題を解決できず評価を下げるという論。真っ二つに割れていることだ。新iPhone投入は、アップル、そしてスマートフォン市場にどのような影響を与えるのだろうか。

今年のiPhoneが乗り越えるべき課題

スマートフォン分野のおけるアップルの課題は明確だ。先進国におけるスマートフォン普及が進み、アップルが得意とする上位クラスの端末を好むユーザー層にiPhoneが浸透。その一方で、高級機(と年落ちの高級機)のみしかラインナップに持たないため、新興国での台数ベースのシェアが激減している。

サムスンが大きなシェアを獲得するにいたった経緯がまさにそれだ。サムスンは上位モデルでブランドを引き上げつつ、新興市場では手頃な価格の端末を取りそろえ、各地域ごとに異なる販売事情に対応することで台数を稼ぎ、アップルを追い越していった。

アップルの今後に対して否定的な意見をおおまかにまとめるなら、マイナーチェンジに過ぎない(少なくとも見た目の変化は些少となる)iPhone 5Sでは既存ユーザーの買い換えを促すことはできず、低価格モデルのiPhone 5Cも驚くような内容は盛り込めず、新興国でのさらに安価なAndroid端末に対抗できるほどの価格競争力はないというものだ。エビデンスとしては、中国での(スマートフォンだけでなくタブレットを含む)アップルのシェア急落といったデータが添えられることが多い。

アップル製品が人気を博してきた背景には、いくつかの異なる切り口がある。

まず特注品、あるいは試作品でしか作れないような、量産モデルとは思えないような高級感を与えつつ、価格は一般的な上位モデルと同等に抑えてきたこと。ガラスとステンレスを大胆に使ったiPhone 4や、アルミ削り出し筐体のiPhone 5は、他の同価格帯製品に比べた質感が高い。

次にソフトウェアプラットフォーム(iOS)とハードウェアプラットフォーム、サービスプラットフォーム(iTunes StoreやiCloudなど)のアップデートを上手に組み合わせ、端末の買い換え時期まで継続して高い満足度を演出している。ハードウェアの基本概観を2年に一度、ハードウェア性能とiOSを1年に一度更新し、継続的にアップデートされるサービスプラットフォームの新機能と歩調を合わせることで、典型的な顧客の買い換えサイクルの中で鮮度を失わないよう工夫し、iPhoneからの離脱率を下げている。

ただ、これらの戦略は”ただひとつの高品位なiPhone”を中心にしたもので、ここに”確かにiPhoneではあるが、手に取ると残念”なモデルが加わると、これまでに築いてきたブランドイメージを損ねることになる。

iPhoneの低価格モデルが2年ほど前から噂されながら、これまで旧型製品を低価格機としてラインナップし続けてきた。ハードとソフト。両プラットフォームを計画的にアップデートすることで、製品の長寿命化を図り、旧型ながら質感の高い製品を下位モデル相当として販売してきたのは、従来の成功モデルを守ってきたとも言えるが、言い換えれば、従来の成功体験から抜けられずに苦しんでいたとも言えるだろう。

この課題に対し、今年のアップルはiPhone 5Cという回答を用意している。アップルの今後に対する評価が二分されるのは、その回答の予測と評価の違いによるものだ。

”新しいiPhoneでアップル急伸”派のシナリオ

閑話休題。

新iPhone発売を前にして、さまざまな噂が飛び交っている。確かに具体的な話として、新しいiPhoneのスペックや対応周波数、新たにiPhoneを販売する携帯電話事業者の名前などが、筆者が普段から取材している情報源からも上がってきているのは確かだ。ただし、詳細に関しては何も確からしいことはない。

ソフトバンクやKDDIの関係者に尋ねてみたが、8月22日に確認した時点では、9月10日とされるiPhone発表イベントへの正式な招待状や商談スケジュールの設定は行われていないとのことだ。

iPhoneは毎年、最終スペックの通知もギリギリのタイミングまで知らされず、発注台数なども最終的な納入価格が決まっていない中で大まかな数を決めていくという。最終的な商談が設定されるのは発表会当日。

このため、セールスやマーケティングを担当する重要なポストの人間はアップルの発表日にサンフランシスコに集合。日本に控えるチームともやり取りしながら、料金やプロモーション、セールスのプランを練り込んでいく。アップルの発表直後に、日本での料金プランを即時発表できない理由は、こうした部分にあるそうだ。

噂通りに米・太平洋時間の10日午前中に新iPhoneが発表されるのであれば、日本における各キャリアからの発表は日本時間の12日になる可能性が高い。噂されるNTTドコモからのiPhone発売(事実なら他キャリアと同様に商談などのためドコモのキーマンがサンフランシスコに大挙して訪れることになるはずだ)だが、同時にdocomoスマホラウンジ有楽町が11日に臨時休業との報が伝わり、これはiPhone発売の発表会に違いないとの噂が出回った。

しかし前述したような事情から、11日に料金プラン、セールスプランを発表するのは極めて難しい。ドコモの公式な回答としては、隣接するドコモショップを含めた研修を行うためとのことだが、iPhone発売に向けての衣替えと(他端末との販売方法の違いなど)店員向けの研修が目的なのかもしれない。いずれにしろ11日該当する有楽町のラウンジでドコモ版iPhoneの発表がある可能性は低そうだ。

さて、話題を戻そう。

インセンティブの金額が大きい日本では、低価格版iPhoneは、さほど大きなインパクトがあるようには見えないかもしれない。なにしろ現在、最新のiPhone 5そのものが、実質タダで入手出来るのだから。しかし、他国を見るとiPhone 5は高級機であり、旧モデルのiPhone 4Sも(2年縛りのインセンティブを含めても)無料ではない。

もし、iPhone 5Cは4Sと同等の価格設定であり、米国でも中国でも2年契約で縛られても無料にはならないため、低価格Android端末には敵わないという論も成り立つ。しかし、もし米中で実質ゼロ円販売が行えるならば、話は変わってくる。

期待が大きい中国移動版iPhone

アップルが中国スマートフォン市場でのシェアを落としている理由に、7億契約という中国最大の契約者数を誇る携帯電話事業者である中国移動通信(China Mobile Limited)がiPhoneを販売していないという理由がある。中国移動の張り巡らせているネットワークにiPhoneが対応していなかったためだ。4G通信に関しても主流であるLTE(FDD復信)ではなく、TDD復信のTD-LTEを採用している。

今年のiPhoneでの話題のひとつには、このTD-LTEへの対応がある。アップルはAndroidよりも優れた原体験をiPhoneでしてもらうことが重要と考えているが、購買力の低い中国の消費者にiPhoneの原体験を埋め込むには、最大勢力の中国移動向けに対応した、なおかつ安価なiPhoneが必要になる。

このため低価格版iPhoneのiPhone 5Cは、現行iPhone 5とほぼ同じスペックの性能を持たせた上で、モデム部分を最新とすることで従来対応していなかった周波数や通信方式(TD-LTE)にも対応する。意見が分かれるのはコストの部分だ。

iPhone 5Cの素の価格は500ドル程度で、iPhone 4Sと同程度の価格的な位置付けて売られるという(ニュースソース不明の)話がある。これが事実ならば、実質無料の販売は行えない。しかし、別の情報筋からは「iPhone 5をそのまま販売ならそうなるが、実際には筐体など各部コストダウンを図っているため、低容量モデルはiPod touchの大容量モデルと同等の価格になる」とのコメントを得た。

いずれも名前を明かせないという意味では、絶対確実な話ではないが、後者の話を信じるならば約400ドル。これならば、中国および北米において、2年縛りの実質無料販売が可能になってくる。

その上で、6000万契約回線を持つドコモがiPhoneを発売するとなれば、日本の国内のiPhone比率も高まっていくだろう。LTE対応も二年目を迎え、日本の電波割り当て事情に即した対応周波数のモデムが搭載されることも前向きな材料だ。

低価格版iPhoneは、(最新モデルが実質無料となっている)日本のスマートフォン販売動静にはあまり大きな影響を与えないと考えるかもしれない。確かに三大携帯電話事業者に関してはその通りかもしれないが、ソフトバンクが、ウィルコムやイーモバイルのブランド/チャネルでiPhone 5Cを、より低い月額料金で提供するなどのシナリオも考えられるだろう。

現時点では端末を販売する携帯電話事業者でさえ、最終的な価格は完璧に把握出来ていない中ではあるが、価格戦略次第では手詰まりと言われるアップルの反転もあるだろう。現在、別の理由から高騰しているアップルの株価だが、記事中に紹介されているアイカーン氏の強気は、あるいは”裏書き”あってのものなのかもしれない。