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「飲めるコロナ治療薬」で入院リスク半減のデータが発表。ついにゲーム・チェンジャーが現れたのか

市川衛医療の「翻訳家」
(提供:Merck & Co Inc/ロイター/アフロ)

10月1日、米メルク社は開発中のコロナ治療薬「モルヌピラビル(Molnupiravir)」の臨床試験の中間評価を発表。軽度から中等度の新型コロナ患者に投与したところ、入院リスクがほぼ半分に下がったことを発表しました。さらに特筆すべきは、投与された場合はいまのところ死亡者が確認されていないということです。

メルク社は、このデータを持ってFDA(アメリカ食品医薬品局)への緊急承認の手続きを行うことを発表しています。もし緊急承認されれば、世界初の「飲めるコロナ治療薬」となります。

「入院半減、死亡者ゼロ」中間解析の結果は

モルヌピラビルは「リボヌクレオシド類似体」と呼ばれる物質で、動物実験などでウイルスの増殖を抑制する効果が期待されていました。カプセル剤になっており、口から飲んで服用します。

今回、メルク社が実施した臨床試験に参加したのは、軽度から中等度のコロナ患者さん762人です。全員が、「肥満」や「心臓病」などコロナが重症化する危険因子を少なくとも1つ持っていました。

参加者は2つのグループに分けられ、377人は実際にモルヌピラビルが入った薬を5日間、1日2回飲みました。385人は形が似せてあるけれどモルヌピラビルが入っていない薬(偽薬)を同じ期間飲みました。

29日後の結果を見てみると、投与されなかった群(偽薬)のうち14.1%の人が入院したのに対し、投与された群では7.3%と、およそ半分になっていました。

さらに、投与されなかった群では8人が死亡したのに対し、投与された群では死亡者は確認されませんでした。

いわゆる変異株に対する効果も調べたところ、デルタ株などに対しても有効性は変わらないということがわかりました。また投与群と偽薬群で、薬剤による有害事象にも差はありませんでした。

世界初「飲めるコロナ治療薬」の意義

これまでも「抗体カクテル療法」のように、新型コロナウイルスの増殖を抑えて重症化や死亡を防ぐ薬は存在していました。しかしこれらは、全て注射もしくは点滴により投与する必要があるため、利用のために入院したり、医療機関に行ったりする必要があります。特に患者の急増期には、医療がひっ迫する大きな理由になっていました。

それに対し、モルヌピラビルはカプセル剤になっており、口から飲むことが可能です。インフルエンザにおけるタミフルのようなもの、と言われるとイメージしやすいかもしれません。

経口で薬を服用するイメージ
経口で薬を服用するイメージ写真:Paylessimages/イメージマート

新型コロナが医療ひっ迫を起こす大きな原因が、入院が必要となる人が多く、医療リソースを消費してしまうことです。そして医療ひっ迫となって入院できなくなると、自宅での治療の選択肢が限られるため、救える命が救えなくなることがあります。

口から飲める薬は、この2つの問題の解決に役立ちます。早期に外来で薬の処方を受けて重症化のリスクを下げられれば、入院が必要な人を減らせます。そして自宅での治療の質が高まることで、「そこまで重症じゃないけれど入院が必要」なケースを減らすことにもなります。

そのため、これまでも「飲めるコロナ治療薬」は切望されてきたのですが、去年アメリカで話題となったクロロキンや、現在日本でも話題になっているイベルメクチンなどは、質の高い臨床試験ではっきりした効果は示されていませんでした。

今回、しっかりとデザインされた臨床試験で効果が示されたというメルク社の発表が本当であれば、待ち望んできた「飲めるコロナ治療薬」の登場となります。

さらにメルク社はいま、コロナと診断された人と同居する家族などにモルヌピラビルを服用してもらい、感染や発症を予防する効果があるかを調べる臨床試験も進めています。こちらも効果が認められれば、家族内に感染者が出ても、予防的に薬を飲んで発症を防ぐことができるようになります。いわゆる「コロナと共存する社会」のあり方も、大きく変わるかもしれません。

まだプレスリリース段階。「大喜び」は早計だが…

様々な可能性を感じさせるデータですが、一方で忘れてはならないのは、今回のデータは、メルク社によるプレスリリースとして発表されているということです。

プレスリリースは、論文のように第3者の専門家のチェック(査読)を受けていません。企業の都合が優先されるので、都合の悪いデータが出てきにくい傾向もあります。しかもまだ300人規模という比較的少数の人にしか投与されていないので、未知の副作用がある可能性もあります。

ですので、まだ「大喜び」というのは早計で、「期待の持てるデータが出てきたなあ」くらいに捉えておいたほうがよさそうです。

もしFDAの緊急承認となり、そして日本での使用が始まるとしても、始めはより慎重に、利用のメリットが高い人(肥満や糖尿病などがあり重症化リスクの高い人)への投与が優先されることになるかもしれません。

とはいえ、突然の新型コロナ・パンデミックから1年半以上、当初は開発に数年かかるとされたワクチンは1年で開発され、特に先進国では普及が進みました。

そして「飲める治療薬」についても、メルクのほか、日本でも塩野義製薬などが開発を進めています。

未知のものだったウイルスの性質は徐々に解明され、対抗する技術の開発も着々と進んでいます。それをどうすれば適切に社会として取り入れ、より自由で安心して暮らせる姿を取り戻していくことにつなげられるか。それを考えるためにも、今後に注目していきたいニュースです。

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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