花粉症のクスリの負担が数倍になる?プチ炎上したニュース、実際どのくらい負担が増えるか計算してみた

花粉症イメージ(写真:アフロ)

今月22日、「花粉症の薬を医療保険の適用外にする」ことを検討すべきでは?という提言を含む報告書を健保連がまとめ、話題になりました。

花粉症薬、保険適用外に=医療費600億円削減-健保連提言(時事通信2019年08月23日)

「企業の健康保険組合で構成する健康保険組合連合会(健保連)は22日、医療機関で処方される市販薬と同じ成分の花粉症治療薬について、医療保険の適用から除外し全額自己負担にすべきだとの提言を取りまとめた。保険財政悪化への対応策と位置付け、最大で年600億円程度の医療費削減効果があると試算。その半面、1~3割の支払いで済んでいた患者の負担は重くなる。」

出典:時事通信2019年8月23日記事

記事によれば、「1~3割の支払いで済んでいた患者の負担は重くなる」とのこと。この記事はYahoo!トピックで取り上げられ、SNSでは花粉症を抱える人から「負担が重くなるなんて」という不安の声が続出。「プチ炎上」と言っても良いかも?という状態になりました。

筆者も花粉症もちです。スギ花粉の季節に、つらいときには薬を使いたくなります。自分で病気になりたくてなったわけじゃないのに、負担が重くなると聞くと「なんでなの?ほかに減らせるところがあるはずじゃないか!」と思ってしまいます。

でも、ちょっとだけ立ち止まって考えてみました。そういえば、花粉症のクスリが医療保険の適用にならなくなったとして、負担はどのくらい増えるのでしょうか?

実際に試算してみたら…。市販薬のほうが安いケースも?

病気になったときに飲むクスリには、大きく分けて「処方薬」と「市販薬」があります。

処方薬は、医師の診察を受けた後に処方される薬です。薬局で購入する場合、医師が発行する「処方せん」を渡して購入します。医療保険が適用され、自分で負担するお金(自己負担)は3割程度に抑えられます。

一方で市販薬の場合、ドラッグストアなどで処方せんなしで購入できる手軽さがありますが、医療保険は適用されず、全額自己負担となります。

処方薬と市販薬を比べると、市販薬は一般に効き目が弱めだったり、有効成分の量が少なめだったりします。しかし中には、処方薬と有効成分も量も変わらない市販薬が販売されているケースもあります。

例えば花粉症の症状を抑えるために使われる「フェキソフェナジン塩酸塩(商品名:アレグラ)」であれば、処方薬として「アレグラ60mg」が、市販薬として「アレグラFX」が販売されています。この2つは、有効成分も、それが含まれる量も同じです。

冒頭の健保連の提言で言われているのは、花粉症の薬すべてを医療保険から外すのではなく、こういう「処方薬とだいたい同じ市販薬」が手に入るものに関しては、医療保険から外しても良いのではないか?ということのようです。

ただ消費者の立場からすると、処方薬として購入すれば医療保険の適用が受けられて安いのに、市販薬として購入したら大幅に高くなる、というのではモヤモヤしますよね。

では実際、どのくらい違うのでしょうか?

薬イメージ 画像:Pixabay
薬イメージ 画像:Pixabay

市販薬(商品名:アレグラFX)は1ケース28錠(14日分)の場合、メーカー希望小売価格は税込みで2036円(小数点以下切り捨て・以下同様)となっています。

一方で処方薬(商品名:アレグラ60mg)の場合、薬剤費は1錠57.4円。市販薬1ケースと同じ(28錠)だけ購入した場合、1607円になります。

さらに処方薬の場合、医療保険が適用されます。カバーされる率は状況によって変わりますが、通常の3割負担だとして単純計算すると 1607円×0.3=482円となります。(実際の計算はもう少し複雑ですが、金額はだいたい一緒です)

2036円と482円。お薬にかかる費用だけを見ると、4倍以上も違う!

やっぱり、とんでもない負担増な気分になってきた…

ただ一方で、処方薬を購入するためには、基本的に医療機関を受診して、医師の診察を受ける必要があります。

その場合、医師の診察料がかかりますし、さらに、薬局で薬を梱包してもらったりするための料金(調剤費)もかかるはずです。

ちゃんと比較するためには、この部分のお金も考えたほうが良さそうです。

そう思って、冒頭のニュースとなった健保連の報告書を読んでみると…、そのぶんのお金も含めた試算を行っていました(報告書はこちら。試算が示されているのは報告書の128ページです)

試算で示されているケースをわかりやすく表現すると、「働き盛りのサラリーマンが、花粉症でクリニックを初診で受診し、処方せんをもらって薬局で薬を購入する」という感じです。

(※実際の医療費の算出には様々な例外があるので、あくまで試算です)

こんな一般的なケースの場合、薬剤費の他に、次のようなお金がかかります。

【クリニックでかかる医療費】(保険点数1点は10円で換算)

・初診料→282点(2820円)

・処方せん料→68点(680円)

【薬局でかかる医療費】

・調剤基本料→41点(410円)

・薬剤服用歴管理指導料→53点(530円)

・錠数に合わせた調剤料

試算のケースでは、薬剤費の他にかかる医療費は5070円となりました。

それに、さきほど示した薬そのものの価格(薬剤費)を足すと、医療費の総額は6677円となります。

もちろん、このお金には医療保険が適用されますので、自己負担額(3割)を算出すると …

6677円×0.3=2003円となりました。

あれ?さきほどの市販薬の費用(2036円)と、ほとんど変わらないかも…

健保連報告書の試算より筆者作成
健保連報告書の試算より筆者作成

お薬の価格(薬剤費)だけを考えると負担増のように思える場合でも、もろもろの諸費用を考えた場合、医療保険が使えないからといって負担は増えないケースもあるようです。

(なお健保連の報告書によれば、市販薬は実際にはメーカー希望小売価格より安い価格で販売されていることもあるので、市販薬のほうが負担額は安くなる場合もある、ということでした。例えばAmazonだと、現在、アレグラFX(28錠)は500円以上安い1477円で販売されています※8月28日確認)

「あれもこれも」は難しい時代 冷静な議論のためにできること

上記の計算では、自己負担額(医療機関やドラッグストアで、直接支払う金額)に注目しました。一方で医療費の「総額」に注目すると、処方薬の場合は6677円、一方で市販薬は2036円となり、前者のほうがずいぶん高額です。

この間を埋めている医療保険は、私たちの支払う保険料や税金を財源としています。そう考えると、上記の金額の差は、無視できないとも思えてきます。

もちろん、花粉症が重症の人の場合、複数の薬を使いながら最適な治療を模索することも必要です。また花粉症だと思っていたのに別の病気が隠れているケースだってあるかもしれません。そういうときは、医師の診察は必要です。

ただ一方で、例えば筆者のように、毎年スギの季節に軽い鼻づまりが起き、特定の花粉症の薬さえ飲んでいれば症状が良くなるような場合であれば、まずは市販薬で様子を見て、良くならなかったり、どんどん悪化してきたりしたら病院へ行く、というのもとりうる選択肢かもしれません。

もし私のような人が、見た目の自己負担が安くなるからと言ってわざわざ医療機関を受診して処方薬を得ていたとしたら、時間の無駄でもありますし、医療保険全体を見た場合、効率的ではないかなあ・・・とも思えてきました。

健康保険料の変化 画像:筆者作成
健康保険料の変化 画像:筆者作成

いきなり大きな話になって恐縮ですが、いま、国の医療費は年間で42兆円を超え、10年前と比べると大幅に増えています。

サラリーマンなどが加入する健康保険組合の保険料も、年間の平均で10年前に比べ10万円以上も増えています。 「そういえば、なんだか保険料高くなっているなあ…」と感じられた経験があるかたも、少なくないのではないでしょうか。

毎月の「健康保険料」10年前より大幅に増えているのはなぜ?「健保組合が解散」ニュースの背景は

今後、日本はさらなる高齢化の進行に直面します。新しい医療技術も次々と登場しています。このままでは医療費は増え続け、家計に直結する毎月の保険料の負担も重くなっていきます。

食い止めるためには、痛みを伴う対策も必要…という声を聴くことがあるかもしれません。でも、今回の花粉症のケースでいえば、負担がとんでもなく増えるわけではなさそうです。それで医療費を少しでも効率化できるのだとしたら、少なくとも話だけでも聞いてみても良いのではないでしょうか。

今回の花粉症薬のケースでいえば、メディアの報道やSNSの投稿のなかには、「薬剤費」のみに注目し、あたかも今回の提言が実施されると「自己負担が何倍にも増える」ように感じさせるものもあったようです。 それは、今後の何十年かを考えた場合に「役に立つ」態度ではないのかもしれません。

医療はわたしたちの生活や命にかかわる切実な問題です。だからこそ、「医療とオカネ」にかかわる議論を進めていく際には、データをもとに、感情的にならずに話を進めていくことが大事です。

「自己負担が増える」と聞くとつい感情的に否定したくなります。しかし、本当に負担がどのくらい増えるのか?その背景にどんな事情があるのか?を調べもせず反射的に拒否してしまえば、議論をスタートすることすらできなくなってしまいます。

今回の報道とその反応を通じて、「冷静にニュースに反応する姿勢の大切さ」を、自戒を込めて改めて感じさせられました。

【監修】

五十嵐中さん(医療経済学者/東京大学大学院薬学系研究科客員准教授・横浜市立大学医学群准教授)

※筆者はこの記事の執筆に際し、健保連を含めたいかなる組織からも一切の利益の提供を受けていません