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セックスで女性ホルモンは増える?ガチで検証した論文を読んでみた

市川衛医療の「翻訳家」
イメージ(写真:アフロ)

「性行為をすると、女性ホルモンがたくさん出てキレイになれる!」

 そんなウワサ、聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

 ネットで検索すると、たくさんの記事がヒットします。性行為によって女性ホルモンの一種であるエストロゲンが増え、お肌などに良い影響を与えるというものです。

 確かに、恋をするとキレイになる、というのは直感的には正しそうな気がしますし、何となく異性と肌を触れ合うとホルモンが出そうな気もします。実際のところ、どうなのでしょうか?

 気になって調べたところ、「性行為と女性ホルモン」の関係について、科学的な手続きを踏んで検討した研究(※1)を見つけました。

性行為を経験した人は、女性ホルモンの濃度が高い

 調査を行ったのは、アメリカ国立衛生研究所(NIH)の研究グループ。対象となったのは、18歳~44歳の女性259人です(平均27歳)。

 女性たちはまず、「これまで、性行為をしたことがあるか?」について尋ねられました。その後、およそ2か月間にわたり、性行為を行った日を記録しました。また3日に1回ほど、朝に採血し、血液中の女性ホルモンの濃度を調べました。

(詳細は記事末尾の注を参照)

 すると、過去に1度でも性行為をしたことが「ある」と答えた人は「ない」と答えた人に比べ、女性ホルモンの濃度が15%ほど高いことがわかりました。この結果は、年齢や身長・体重など、性的な成熟度などに影響する要因を調整しても変わりませんでした。

女性ホルモンの濃度が高い日は性行為が起きやすい

 さらに、性行為の記録と血液検査の結果をつきあわせると、興味深いことが分かりました。

 対象者が「性行為をした」と答えた日の朝に採血したサンプルを調べると、女性ホルモンの濃度が平均より15%ほど高かったのです。

 一方で、性行為をする前の日(つまり、性行為をしていない日)のサンプルを調べると、平均と変わりませんでした。

たくさん性行為をしても女性ホルモンの濃度は変わらない

 この研究では、調査期間中の「性行為の頻度」と「女性ホルモンの濃度」の関係も調べています。

 過去に一度でも性行為を経験した人の中で調べると、調査期間中に「性行為をしなかった人」と「週に1回以上性行為をしていた人」の間で、女性ホルモンの濃度は変わりませんでした。

 この結果からは、性行為をすればするほど、女性ホルモンの濃度が高まるわけではないと言えそうです。

pixabay
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 これらの結果を、どのように解釈すればよいのでしょうか?

 まず、女性ホルモンの濃度が高まった日に性行為が行われていることから、「女性ホルモンが増えると、性行為をしやすくなる」と推測されます。

 月経周期の中で、女性ホルモン(エストロゲン)は排卵日に向けて増え、排卵日付近で性行為をすると妊娠可能性が高まります。

 この調査に参加した人は妊娠を希望していたわけではないのですが、実際に排卵日に向けて性行為の回数が増えていました。妊娠を促すような自然の働きに、知らず知らずのうちに影響されていたのかもしれません。

 そこから考えると、「性行為の経験者は女性ホルモンの濃度が高い」という結果については、「性行為が女性ホルモン濃度を高める」という可能性は否定できないものの、因果関係は逆で、「女性ホルモン濃度が高い人は性行為をしやすくなる」ことを示しているのかもしれません。

 以上をまとめると・・・こんなことが言えそうです。

※「性行為」と「女性ホルモンの濃度」の間には、何らかの関係がありそう

※ただし、性行為をすればするほど、女性ホルモンが出るわけではなさそう

 なんだ、長々と調べた割には、当たり前の結論だ!と思われたかもしれません。でもこれまでの筆者の取材経験で言えば、科学的にきちんと検証すると、往々にしてそういう感じになることが多いようです。

 今回ご紹介した結果はあくまでひとつの研究で示されたもので、確実に「こうである」と言い切れるものではないですが、もし今後「セックスできれいになる!」というような情報に出会ったときに、よかったら思い出してみてくださいね。

【参考文献】

※1

Sexual activity, endogenous reproductive hormones and ovulation in premenopausal women.

Prasad A et al. Horm Behav. 2014 Jul;66(2):330-8. doi: 10.1016

※2

Sex and context: hormones and primate sexual motivation.

Wallen K et al. Horm Behav. 2001 Sep;40(2):339-57.

【注釈】

・ここでいう性行為とは、vaginal-penile intercourse(膣に陰茎を挿入する行為)を指します

・研究では、妊娠に関わる様々なホルモンの濃度や排卵の状況などについて調べていますが、この記事では一般的に女性ホルモンとされることの多いエストロゲン(エストラジオール)の結果のみを抜粋しています

・対象者259人中、9人の調査期間はおよそ1か月でした。

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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