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がん検診「陽性」でも99%は問題なし?意外と知らないデータの真実

市川衛医療の「翻訳家」
イメージ(写真:アフロ)

がん検診を受けたことがありますか?

例えば胃がん検診として行われる胃X線検査。バリウムを飲んでからX線で写真を撮影し、がんがないか調べるものです。大体は「問題なし」となるものの、万が一「疑いあり、要精密検査」と言われたら心配になりますよね。

では、質問です

胃X線検査では、がんがあれば90%ほどの確率で「陽性(疑いあり)」になります。

一方で、がんがなくても、およそ10%の確率で「陽性」と判定されます。

では、あなたが「陽性」となった場合、本当にがんがある確率は何%でしょうか?

1)90%

2)9%

3)1%

正解は、こちらです

3)およそ1%

わかりやすく言えば、「陽性」でも、およそ99%はがんではないということです。

そんなわけはない!と思いますか?いえいえ、そんなことはありません。

こちらの資料には大阪がん予防検診センターによる調査の結果が紹介されていますが、胃がん検診(胃X線検査)を受けた43万人のうち、「陽性」とされたのはおよそ4万人。そのうち、本当にがんがあったのは782人でした。確率は、およそ1.9%となります。

大阪がん予防検診センターの調査  (1996年から2002年まで)
大阪がん予防検診センターの調査  (1996年から2002年まで)

ある検査によって、がんがある人の何%を見つけられるか?を表す数値は「感度」と呼ばれます。胃がん検診(胃X線検査)の感度はだいたい90%です。

「感度90%」と聞くと、陽性になったらほとんど「がん確定」のような気がしてしまいますが、実際には陽性になっても、本当にがんがある人はごく一部に過ぎないのです。

「90%を見抜ける検査」のはずなのに??

どういうことなの?と思われたかもしれません。カラクリは単純で、「がんになる人は、そんなにいない」からです。

例えば胃がんであれば、新しくがんが見つかる人は、毎年10万人に140人くらいです(男性)。胃X線検査は、本当にがんがある人のうち90%を見つけることができますから、もし10万人が胃がん検診を受けると、140人×0.9=126人くらいが見つかる計算になります。

一方でこの検査では、がんではない人も10%が「陽性」とされます。つまり胃がん検診を10万人が受けると、およそ1万人が「陽性」となります。

陽性になった1万人ほどの人のうち、本当にがんである人は126人です。

以上から、「陽性」となった人のうち、胃がんである人は1%ほどしかいないことがわかります。

知って得する がん検診の「考え方」

意外でしたか?この話のポイントは2つです。

まず重要なのは、がん検診を受けて「陽性」とされても、それほどストレスを感じる必要はないということです。10万分の140だったのが、1万分の140になっただけです。

そもそも自治体などで行われている検診(対策型検診)では、厳密さはそこまで求められません。目的は、「アヤしい人」を見つけて精密検査を受けてもらうことだからです。

精密検査をすると、がんがあるかどうかを高い精度で調べることができますが、時間的にも金銭的にもコストがかかります。だから、最初は網を大きく拡げて「アヤしい人」を見つけ、その後、精密に検査する戦略をとっているのです。

つまり、がん検診を受けて「陽性」の通知が届いた時。「がんがあるに違いない!」と思って強いストレスを感じたり、逆に「どうせ大丈夫だから精密検査を受けないでも良い」と思うのは、どちらも大きな間違いです。

むしろ役に立つのは「陽性だ!良かった!」という考えかもしれません。なぜなら、がんの精密検査を人間ドックなどで希望して受ける場合は基本的に全額自己負担になりますが、がん検診で疑いが指摘されれば、保険が適用され3割程度の負担で済みます。しかも、万が一がんが見つかれば、治療を受けることで命が助かるかもしれません。それってすごいメリットですよね。

そしてもう一つのポイントが、「感度」にごまかされてはいけないということ。記事や資料などに「感度90%の最新がん検査法」などと書いてあると、すごい技術のような気がして、高額でも利用したくなりますよね。でもここまで書いてきたとおり、がん検診の場合、「どれだけ見つけるか」と同時に「どれだけ”無実”の人を陽性としないか」がすごく重要だったりします。また、がんが見つかるとして、それで本当に命が助かるのか?という点も大きなポイントになります。

とても身近な「がん検診」。でも、その内容や狙いについて、良く知らないでいると上手に活用することができません。自分や家族の命に関わることです。ちょっとでも興味を持ち、確かな情報を得ておくかどうかが、いざという時に大きな違いを生むのかもしれません。

もし興味をもたれた方は、こちらの記事も読んでみてください

がんの「早期発見」は、すべきではない!?

「がんで死ぬ人は、減り続けている」 意外と知らないデータの真実

※5月4日 題名につきコメントでご指摘を頂いたので変更しました。ご指摘、ありがとうございました。

医療の「翻訳家」

(いちかわ・まもる)医療の「翻訳家」/READYFOR(株)基金開発・公共政策責任者/(社)メディカルジャーナリズム勉強会代表/広島大学医学部客員准教授。00年東京大学医学部卒業後、NHK入局。医療・福祉・健康分野をメインに世界各地で取材を行う。16年スタンフォード大学客員研究員。19年Yahoo!ニュース個人オーサーアワード特別賞。21年よりREADYFOR(株)で新型コロナ対策・社会貢献活動の支援などに関わる。主な作品としてNHKスペシャル「睡眠負債が危ない」「医療ビッグデータ」(テレビ番組)、「教養としての健康情報」(書籍)など。

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