人工知能は「医療」を変えるのか?

写真はイメージ(写真:アフロ)

2月24日(火)に「グーグル・ディープマインド」(イギリス)が医療・健康事業への進出を発表しました。近年たびたび話題になる、人工知能の「医療」への応用。どのくらい進んでいるのでしょうか?そして、私たちの受ける医療を、どのように変える可能性があるのでしょうか?

医師が働きやすくなるアプリ

今回、医療分野への進出を発表した「グーグル・ディープマインド」は、あの有名なグーグル(アルファベット)傘下の会社です。”ディープラーニング”という技術を使い、「人間が指示しなくても、自ら学ぶことができる」人工知能を開発しています。同社は1月末に、開発した人工知能が囲碁のトッププロに勝ったことを示す論文を発表。囲碁はチェスなどと比べてとても複雑で、人工知能が人間に勝つことは当分ないだろうと考えられていましたので、世界中に衝撃が走りました。それから1か月もたたないうちに今回の発表があったわけですから、「これは何か、全く新しいことを始めるのではないか?」と期待が高まったわけです。

ところが同社の発表によると、実は現時点では、今回の事業に人工知能の技術は使っていないということです。

検査結果の確認アプリ”Streams” グーグル・ディープマインド ホームページより
検査結果の確認アプリ”Streams” グーグル・ディープマインド ホームページより

同社が「現在開発中」としているのは、血液検査などのデータを医師がスマホで確認できるようにするアプリと、医師の業務管理をしやすくするためのアプリです。

開発に協力しているロンドン王立自由病院のクリス・レイン医師は、「医師は常に動き回っているので、データを手元ですぐに確認できるようになると助かります」と語っています。

グーグル・ディープマインドHPによると「現在は人工知能の技術は利用していないが、将来的には利用する可能性を検討したい」ということです。

「実用的」な人工知能

「人工知能の開発企業が医療分野に進出」と聞くと、例えば「人間の代わりに手術してくれる?」「誰も気づかない治療法を提案してくれる?」といったサービスを思い浮かべてしまいますが、いま実際に行われている「人工知能への医療の応用」の取り組みを見ていくと、その内容はもっと地味。言い換えれば「実用的」なものが多いようです。

たとえばMDアンダーソンがんセンター(アメリカ)などの研究グループは、IBMが開発した人工知能「ワトソン」をがんの治療に生かすための取り組みを進めています。ワトソンは人間の言語を理解できる人工知能として知られており、これまでがんの治療のために書かれた膨大な書類(治療指針や論文など)を読むことができます。その豊富な知識を生かして、患者さんにとって適切な薬や治療の「候補」を示すというものです。

これができれば、医師がいらなくなってしまうのでは?と思ってしまいますが、実際のところ、候補の中から診断を決めるのはあくまで医師。そして、そもそも判断のもとになっている「知識」は人間が作ったものですから、それを超えた提案をすることは難しいと考えられています。ですのでこの技術は、例えばがんの専門的な知識を持っていない医師に対し、人工知能が標準的な「候補」を提案することで、医療の質が高まるのではないか?といった利用法が考えられています。

先は長い?「医療応用」への道

人工知能の医療への応用に挑戦している現場の方から話を聞くと、私たちがイメージするような「医師の代わりとなる」人工知能を開発しようとした場合の課題のひとつは、「言葉にできない情報」をどのように獲得するか?ということだそうです。

(人間の)医師は治療の方針を決める際、検査データや問診だけではなく、患者さんの表情やしぐさ、言葉の調子など「非言語的な情報」も判断の材料にしており、ときに一般的な治療指針から外れた治療を行うこともあります。しかし、そのほうが患者さんの利益につながることも少なくありません。

医師の代わりができる人工知能を開発するには、このような、いわば「直観的」な判断がどのように行われているのか?そのもとになるデータを、どのように取ればよいのか?さまざまなことを解明しなければなりません。勝ち負けのルールがはっきりしている囲碁やチェスなどのゲームと違い、万人に当てはまる「正解」が存在しない医療の分野では、まだまだ人間の力に追いつくのは難しいのが正直なところです。

もちろん、囲碁の分野で人工知能が驚くべき進化を遂げたように、将来、医師の「カン」までを解明する人工知能がでてくる可能性は否定できません。しかし現時点では、人工知能は医師の「代わり」ではなく、「サポートツール」を目指した開発が進んでいる、というのが実態のようです。