コロナ禍でネガティブな曲は聴かれなくなった? 世界のヒットソングを分析
瑛人「香水」、YOASOBI「夜に駆ける」など多くのヒットソングが生まれた2020年。
こういったヒットソングは「その時代を映しだす」ともいわれるが、コロナ禍で世界が激変した2020年、ヒットソングのトレンドにも変化はあったのだろうか?
今回は、世界最大級の音楽ストリーミングサービスであるSpotifyが公開しているデータをもとに、2020年のヒットソングと過去10年のヒットソングと比較し、どう変化したのかを調べてみた。
過去10年分の世界のヒットソングを分析してみた
Spotifyは、曲名やアーティスト名などはもちろん、アコースティックな曲かどうか(acousticiness)、ダンスに向いているかどうか(danceability)といったそれぞれの曲の特徴を数値にしたデータを公開している(しかもありがたいことにすべて無料だ)。
今回はそういったSpotifyのデータをWeb APIを通して取得した。なお、公開されているデータには、例えば以下のようなものがある。
さらに、ありがたいことにSpotifyは毎年グローバルのトップチャートもプレイリストにして公開してくれている。今回は、この2つのありがたいデータを組み合わせて「2020年に起きたヒットチャートの大きな変化」を見ていくことにしたい。
- 調査対象:Spotifyの年間グローバルチャートプレイリスト(各年約50曲)
- 期間:2011〜2020年の10年間
【傾向1】ポジティブな曲がヒットしやすくなった
データを見ると、2020年はいつもより「幸せで楽しくて陽気な曲」がヒットした年だったと言えそうだ。
これはvalenceという数値をグラフにしたものだ。「幸せ」「楽しい」「陽気」な曲では大きくなり、「悲しい」「落ち込む」「怒っている」曲では小さくなる。2020年は、ここ10年間のなかでもかなりグイッとこのvalenceが伸びた年だったことがわかる。
細かい数字で見てみると、2015年から2019年までの5年間はvalenceの平均が0.5以下で、ヒットソングは「どちらかというとネガティブ」な状態だった。しかし、2020年は7年ぶりに0.5以上にまで回復しており、「どちらかというとポジティブ」な状態となっている。
厳しい現実が続くなか、世界ではポジティブな曲に励まされた人が多かったことが伝わってくる結果だといえる。
【傾向2】ヒットチャートにライブ感のある曲が急増した
2020年に起きた大きな変化が「ライブ感のある曲」の急増だ。
これはlivenessという数値をグラフにしたものだ。Spotifyの公式情報によれば「オーディエンスがいるところで録音したかどうか」を判断するためのものだという。が、実際に筆者が聴き比べてみたところ、livenessはオーディエンスがいるかどうかだけではなく
- メンバーのアドリブが入っているか
- コーラスがたくさん入っているか
- ライブ会場のように音が反響しているか
なども判断の材料にしているように思えた。つまり、ライブのようにメンバーの生の会話が入っている曲、ライブ会場での合唱のような多重コーラスが入っている曲などは、このlivenessという数字が(おそらく)大きくなるようである。
そのため「ライブの音源がヒットしやすくなった」とは厳密には言えないのだが、2020年は「なんらかの形でライブ会場を思い出させるようなライブ感のある曲」がヒットしやすい年だったとは言うことはできるだろう。
実際、2019年はlivenessが0.2より大きい曲が、50曲中「9曲」だったのに対し、2020年は50曲中「15曲」がランクインしている。世界中でライブやフェスが中止されていく中、「生っぽさのある曲」が人々に求められていたのかもしれない。
【傾向3】(コロナ禍に関係なく)世界ではエネルギッシュな曲が減り、踊りやすい曲が増えている
ここ10年の世界のヒットソングを見てみると、「エネルギッシュな曲」が減り、「踊りやすい曲」が増えているのが全体のトレンドのようである。
これm2020年に急に起きた変化ではなく、ここ10年のゆるやかな「トレンド」だ。そのためコロナ禍の影響は薄いと言えるが、その分、今後もしばらくは世界的に続くと言えそうだ。
日本のヒットソングはコロナ禍でもほぼ変わらなかった
さて、ここまで世界のヒットソングの変化を見てきたが、日本のヒットソングではどんな変化があったのだろうか?
日本ではサブスクリプションサービスが他国ほど使われていないため、CD売上などが含まれたBillboard Japanの年間ランキングTOP100(2011〜2020年)をもとに調べてみた。
結論から言えば、日本のヒットソングのトレンドはほぼ変化していなかった。ライブ感は10年間で見ると一応「微増」しているが、コロナ禍の影響がほぼなかった2019年と比べると減少しており、世界のヒットチャートのような急激な伸びは見られない。
また、ポジティブさについては10年間ずっと「横ばい」となっており、どちらも分析者泣かせの結果となった。
この他、「エネルギッシュさ」「踊りやすさ」といった数値も、日本では10年間ほぼ横ばいとなっている。
余談だが、この他にも「うるささ(loudness)」「テンポ(tempo)」「曲の長さ(length)」などありとあらゆる数値を出してみたものの、日本はほぼすべての項目が横ばいとなっていた。もしかすると「日本は世界と比べて音楽トレンドがあまり大きく変化しない国」と言えるのかもしれない。
コロナ禍でにてきた日本と世界の音楽トレンド
コロナ禍で世界のヒットチャートに大きな変化があった一方、ほぼ変化がなかった日本。
なぜこういった差が出たのかはハッキリしないが、(ヒットソングの再生数の割合の多くを占める)欧米に比べ、日本はロックダウンなどの外出規制が厳しくないこと、死者数も相対的には少ない方であることなどが影響したのかもしれない。
あるいは、日本はコロナ禍の前からそもそも「ポジティブ」で「ライブ感のある曲」が人気であり、他国に比べて伸びしろが少なかったという可能性もある。
このように、同じグラフで並べてみると「コロナ禍で(意図せず)日本と世界の音楽トレンドが似てきた」という見方もできる。このあたりは、アフターコロナでどうなるかも含めて継続的に調べていきたいところである。
というわけで、ヒットソングの傾向がコロナ禍でどう変化したのかを見てきたが、最後にポイントをまとめてみよう。
個人的には、早く事態が終息してアフターコロナのヒットチャートを分析できるようになって欲しいと切に願う。これからもしばらくはつらい日々が続くだろうが、引き続き音楽に励まされながら、この生活を乗り切っていきたい。