Yahoo!ニュース

「正直に答えた」と先生は教え子に胸を張って言えますか?

前屋毅フリージャーナリスト
(提供:イメージマート)

 文科省による教員勤務実態調査が始まった。教員の長時間勤務が社会的な問題となっているなかでの調査であり、その結果が今後の教員の働き方を変える可能性はある。

| 定額働かせ放題にメスをいれられるのか

 基本給月額の4パーセントが教職調整額として支払われる代わりに、時間外手当(残業代)は一切ないのが、教員の働き方になってしまっている。その根拠になっているのが、1971年に制定された給特法(公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法)で、4パーセントの教職調整額だけで過労死ラインを超え勤務を教員に強いている。つまり、「定額働かせ放題」を現実のものにしている法律である。

 その4パーセントは、1966年度に1年間かけて行われた全国的な教員の勤務状況調査を基にして算出されている。調査の結果、月あたりの教員の平均残業時間が「8時間」だった。その8時間の残業手当に相当する額が、基本給の4パーセントというわけである。

 当時は若手教員は残業時間が少なく、それでも8時間分の残業手当がついたので「ありがたかった」という話も聞いた。4パーセントの教職調整額に満足していたといえる。

 しかし現在は、厚生労働省が「過労死ライン」としている月80時間以上の残業をしている教員は、小学校で6割、中学校では7割を超えている。それでも、8時間分である4パーセントしか残業代はついていない。

 その給特法の改正案が2019年秋の臨時国会で審議・成立したものの、4パーセントの教職調整額は手つかずで残った。「定額働かせ放題」は野放しのままなのだ。

 ただし、給特法改正の成立にあたって、「3年後を目途に教育職員の勤務実態調査を行った上で、本法その他の関係法令の規定について検討を加え、その結果に基づき所要の措置を講ずること」という国会の附帯決議がつけられている。勤務実態の調査結果によっては、根本的な見直しの検討を求めているわけだ。4パーセントの教職調整額の見直しが行われる可能性もある。

| 健全な働き方をとりもどすのは教員しだい

 その「3年後を目途に教員職員の勤務実態調査」が、8月から始まった調査である。8月、10月、11月それぞれ連続する7日間の勤務実態を調べるものだ。

 過労死ラインを超える勤務実態が明らかになれば、「定額働かせ放題」に文科省もメスをいれないわけにはいかなくなる。それには、実態が明らかにされることが絶対に必要になってくる。

 ただし学校現場では、文科省が定めた「月45時間、年360時間以内」の残業時間を守らせるために、勤務時間を過少申告させる圧力が強まっているようだ。校長室に呼びつけられて、「時間外勤務が多いみたいですね」とネチネチやられるといったケースもあるらしい。それが面倒で過少申告している、という教員の声も聞いた。

 しかし、今回の勤務実態調査で過少申告していると、実態が把握されないまま、「措置は必要なし」にされてしまいかねない。4パーセントの教職調整額の見直しも必要なし、になってしまいかねない。

 末松信介文科相も5月17日の閣議後会見で、「万が一、校長が虚偽の記録を残させるようなことがあった場合には、信用失墜行為として懲戒処分の対象ともなり得る。これは重要なポイント」と強調している。過少申告させる行為は懲戒処分の対象にもなる、と明言しているのだ。過少申告のプレッシャーに対しては、末松文科相の発言を突きつけて抵抗すべきである。

 今回の教員勤務実態調査の結果が、「定額働かせ放題」を是正することになる。そのためには、教員が勤務時間の過少申告をやめて、正直な実態を報告することこそが重要になる。過少申告は、児童・生徒にウソを奨励することにもなりかねない。「先生は正直に答えたよ」と、教え子に胸を張って言えるような調査への対応が必要なのではないだろうか。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

前屋毅の最近の記事