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自分で稼いだおカネだからこそムダにしない子どもたちの真剣さ、そして楽しい

前屋毅フリージャーナリスト
計算どおり余ってしまったレンガは機転で「虫の入口」となった   撮影:筆者

 その日、子どもたちは大興奮だった。

 美女木小学校(埼玉県戸田市)の3年生は、総合学習で虫を増やす環境をテーマに取り組み、その環境を実際につくるために、グッズを製作・販売できるサイト「SUZURI」で1クラスあたり2万円強の資金を稼ぎだした。そして3年1組は、その資金で購入した資材を使って自分たちが構想した「美女木グリーンパーク」を実現する作業に着手したのだ。

参考:なぜ子どもたちは稼いだのか   https://news.yahoo.co.jp/byline/maeyatsuyoshi/20220127-00279168

| どんどん自分で判断し動く子どもたち

 授業開始時間が近づくと、3年1組の子どもたちは教室のうしろに整列を始めた。ソワソワと落ち着かない様子で興奮気味だが、どの子も笑顔があふれている。職員室から戻ってきたその様子を見た担任の才田恵理子さんは、「あら、ひとこと話してから出発しようとおもっていたのに、もう並んでるのね。じゃ、話はあとにして出発しましょうか」と、これまた笑顔で応じた。

 それを合図に、子どもたちは校舎の出口へと向かい、外に集まる。才田さんから話があって、それぞれに道具を手にした子どもたちは「現場」へと向かう。教頭と折衝して確保した一画が、美女木グリーンパークの建設現場なのだ。

 現場に着いた子どもたちは、すぐに自分の作業を始める。事前に、それぞれの役割分担ができているらしい。メジャーで場所決めをして草をむしり、レンガを並べる位置をシャベルで整える子たち、パークの真ん中に置く小屋のようなものをつくる子たちは木の寸法を測り、のこぎりで切っていく。

 レンガを置く準備ができると、レンガが並べられていく。「レンガの個数は、どうやって決めたんですか」と才田さんに質問すると、嬉しそうに次の答を戻してきた。

「場所の周りをメジャーで測ったら8メートルちょっとで、レンガの寸法は決まっているので1メートルにつき何個が必要、といったぐあいに子どもたちが導きだしていったんです。私は口出ししていないんですけどね」

 レンガがほとんど並べられたとき筆者が「レンガが余りそうですよ」と才田さんに話しかけたら、「子どもたちが、『足りなくなったら困る』と5個ほど多く購入したようです」と戻ってきた。並べ終わってみると、5個が余った。子どもたちの計算はドンピシャリだったわけだ。

 問題は、余ったレンガである。どうするのだろうと見ていると、ひとりの子が「入口をつくろう」と提案し、1個をはずして入り口のように両側に3個ずつを並べた。見事に入口らしきものができあがった。それを見ていた才田さんも、「虫の入口らしいです」と笑っている。

 小屋らしきものをつくっていたグループをのぞくと、板を切り分けるところまでは順調だったがクギを打つ段になって悪戦苦闘している。交代で打つのだが、誰がやってもクギがうまくはいっていかない。

 心配になったが、黙って見守るしかない。そのうちコツをつかんだのか、ひとりが上手に打ち込んだ。それを見ていて、どの子も上手に打てるようになっていく。誰に教えられるでもなく、子どもたちは試行錯誤しながら学んでいる。「できない」とか言いだす子がでてくるのではとおもっていたのだが、その予想は裏切られた。

 そして、ほぼ完成しかけたときにハプニングがあった。打ち終えたクギの何本かが、板からはみ出してしまっていたのだ。そのままにしておけば、ケガをする原因になりかねない。子どもたちも気づいて、なんとか抜けないか話し合っているが、抜くには完成したものをばらしてしまわないとムリそうだった。

 すると、「ボンドで固めよう」という声があがった。もちろん、子どもたちのひとりだ。「ボンドが固まったらケガしないよ」ということで、ボンドで固める作業が始まった。

 そこに、大人はまったく口を挟んでいない。子どもたちからも、大人に助けを求めるようなこともない。すべてが、子どもたちのあいだで話し合い、解決策をだしながらすすんでいく。

 整地を行っていたグループにもハプニングがあった。土を掘り返している途中に、「ミミズがでてきた」とか「ダンゴムシだ」という声があちこちからあがる。「いったん外にだそう」とかの声もあったが、誰かが「ダンゴムシのベッド」とか言って剥がした苔を集め、そこにダンゴムシを置いた。すると、「いいね」という声があり、ダンゴムシやミミズが見つかると、そこに運びこまれた。いつの間にか、予定にはなかった「ダンゴムシの家」がパーク内にできてしまっていた。

 担任の才田さんが、子どもたちに指示をだすわけではない。それでも子どもたちは、淡々と作業をすすめていく。それを見ながら才田さんは、「へぇー」とか「すごい」を連発している。

 その日の作業が終わり、後片付けも迅速に終わる。あとには、ムダなものは何も残っていない。必要なモノを、自分たちが稼いだおカネの範囲で計算し、自分たちで購入してきた。見事なくらいに、ムダがない。自分たちが稼いだおカネだからムダにはできない、という子どもたちの気持ちがヒシヒシと伝わってくる。そして、何よりも作業をやる子どもたちの姿からは楽しさがいっぱいに伝わってきた。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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