学校現場では〝おカネ儲け〟にふれることはタブー視されがちである。おカネ儲けを子どもたちに教えるなどもってのほか、という考えは根深くある。しかし、それによって学びが止まってしまう。もったいないことだ。だからこそ、埼玉県戸田市の美女木小学校の3年生はタブーに挑戦した。

|子どもたちが自ら考える授業

 美女木小学校の〝おカネを儲ける授業〟は、〝おカネ儲け〟そのものを教えるのが目的ではない。その授業をやることになった経緯を、学年主任であり3年1組担任の才田恵理子さんが次のように説明する。

「3年生が初めて総合学習をするにあたって、理科との関連もあってはいりやすいので、虫というか、生き物を調べることをテーマにしました。そこから、どうやったら美女木小に生き物を増やせるだろうかということになってきたんです。専門家の話を聞くと、虫が少ないと思っていた学校のなかにも、じつは虫がいることに気づいたからです。それなら、もっと増やそうと子どもたちがなっていきました」

 才田さんをはじめ3年生を担任する教員の話を聞く前に、その授業を見学させてもらっていた。教室の黒板には、「どうやって虫を増やすか」といったテーマが書かれてあった。ただ4組の黒板だけが、少し違っていた。「みんなで虫嫌いをこくふくしよう」と書かれていたからだ。そのことを4組担任の林翔一さんに訊ねると、笑いながら話してくれた。

「いったんは、『虫を増やそう』となったんです。そうしたら、『虫が増えると校庭にも行きづらくなる』という意見がでてきました。意外に虫嫌いが多かったんですね。そこから話し合いをすすめていくと、『虫嫌いを克服できるようになるといいね』となって、『それには虫が身近にいるほうがいいから増やそう』となっていきました。遠回りかもしれないけれど、結論はほかのクラスと同じになったわけです」

 どのクラスも「虫を増やす」というテーマにたどりついているが、同じ過程でそうなったわけではなさそうだ。もちろん、そういう結論へと教員が誘導していったわけでもない。指導プランがしっかり組み立てられた授業なら、そうなるかもしれないが、総合学習はそういう授業ではない。才田さんが続ける。

「話し合いをしているなかで、校庭に虫がいないのは草がないから、生き物が好きな花がいつも咲いている場所がないから、といった意見が子どもたちからでてきました。そこで教員が『環境を整えることが必要だね』と言ったわけではなくて、ただ、『どうしたらいい?』と問いかけをしただけです。そうしたら、いろいろな意見がぽんぽんでてきました。教員が答を押しつけるのではなくて、子どもたちが自分で考える、教員もいっしょになって考える、そんな授業になっていきました。それは、ほかのクラスでも同じだったようです」

 才田さんの説明に、林さんやほかのクラス担任も肯いている。学校の授業といえば、教員が教え、それを子どもたちは黙って聞くというイメージがまだ強い。それが違ってきているらしい。

「先に教員が教え込んでしまうのではなく、子どもたちが考えて解決する場面が、以前よりかなり増えてきています。総合学習だけでなく、ほかの教科でも同じです。教員が自分の知識と経験だけで教えても、子どもにとってほんとうの学びにはなりませんからね」

 自ら考える力をはぐくむことは、学習指導要領の「基本的なねらい」のひとつとして強調されている。それでも、教員が教え込んでしまって子どもに考えさせない従来のスタイルからなかなか抜け出せていないのも実態のような気がする。

|学びを止めない授業

 美女木小学校では、子どもたちが自ら考える授業が実践されている。校庭に生き物がいることを知り、それを増やしたいと考え、それには草地や花を増やさなければならないと、子どもたちは自ら考え、話し合うことで気づいていった。

 ただ、そこで終わってしまう授業が多い。「草や花を増やそう」までの経緯をレポートとか壁新聞にまとめるくらいで終わりにしてしまうのが大半のはずである。その先となると、実際に草地や花を増やしてみることになる。それには、おカネが必要になってくるからだ。そんな予算を学校としては割けないし、子どもたちに「自分たちで稼げ」と指導するなど「学校のやることではない」と批判される可能性もある。それで、子どもたちの学びも中途半端なところで止まってしまう。

 美女木小学校の3年生たちも、校庭に虫を増やすための草地や花を増やすには、タネや苗を買うためのおカネが必要だという問題にぶつかった。そこで終われば、学びも止まる。従来の授業と変わらないことになる。

 ところが美女木小学校の教員たちは、子どもたちに「おカネを稼ぐ」ことを提案する。シャツやカップなどに独自のデザインをほどこしてオリジナルグッズを作るパソコンソフトをほかの授業の教材で使っていたのがきっかけだ。そのソフトでは、やろうとすれば、オンラインで販売するところまでできてしまう。これを利用すれば、「おカネが必要」という課題を自分たちの力で子どもたちはクリアできて、学びを進めることができる。

制作したオリジナルグッズに値付けする生徒              撮影:筆者
制作したオリジナルグッズに値付けする生徒              撮影:筆者

「心配はありました。おカネを稼ぐことを、どこまで教えればいいのか不安もありました」と、才田さん。学校現場ではタブー視されてきた授業をやるのだから、もっともなことである。

 それを聞いていた2組担任の後藤香織さんも、「想定外でした」と語る。そして、続ける。

「自分たちで考え、学んだことを、自分たちでおカネを稼いで完結させる授業は、私にとっても想定外でした。子どもたちは教員から教わるだけが授業と思ってきたので、ここまで変わってきていると実感してしまいました」

 3組担任の輿水翔子さんも、「半信半疑でした」といった。「子どもたちが自分で稼いで自分たちの必要なものを買うという授業を私も経験したことがなかったので、『ほんとうにできるのかな』と最初は思いました。でも、子どもたちの反応は非常に良くて、実際に販売にまでこぎつけました。こういう授業ができる時代なんですね」

「おカネを稼ぐ授業」があったことで、子どもたちの学びは中断せず、その先へと向かっている。それは教員も同じで、タブーに挑戦したことで、新しいことを学び、さらに学びを続けている。

 子どもたちがオリジナルグッズをネット上にアップして販売を始めたのは、今年1月19日のことだった。販売終了は1月28日に設定されている。その日が来れば、自分たちが作ったものが売れたのか、もしくは売れなかったのかが、はっきりする。

 その事実を、子どもたちも教員も受け入れなければならない。そこから「虫を増やす」というテーマをどう展開していくのか、さらに考え、新たな決断が迫られる。新たな学びが始まろうとしている。その学びの姿を追っていきたい、と筆者も思った。