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「中学校教員は小学校教員よりヒマだ」と誤解されないか心配になる教科担任制での財務省の主張

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

 特定教科を1人の教員が受け持って複数の学級で教える「教科担任制」を、文科省は2022年度から全国公立小学校の高学年(5、6年生)で導入する。それにともなって必要となる教員を確保するため、特定の目的で教員を追加配置する加配定数を22年度予算で2000人増を文科省は求めたが、財務省に押し切られて950人増にとどまった。減らされた分の負担は、中学校教員にもまわされるようだ。

|2000人の要求が950人に減らされた

 小学校での教科担任制は、22年度には英語、理科、算数、体育のいずれかで週に1コマ程度で実施されるが、25年度には4教科で週に5コマまで増やしていくことになっている。そのために2025年度までに、計3800人の加配定数増を文科省は計画しているという。

 その初年度となる22年度予算で文科省は、2000人の加配定数増を求めていた。しかし22日に行われた末松信介文科相と鈴木俊一財務相との大臣折衝で、950人増どまりとなったのだ。要求の半分以下であり、文科省が財務省に完全に「押し切られた」といえる。増員の見直しは年度ごとに行うということらしいが、こんな状態では、予定の増員ができるのかどうか心許ない。

 注目すべきは、財務省の理屈である。財務省は文科省を押し切るために、「近隣にある中学校の教員などを活用すれば、必要な教員数は抑えられると主張」(『毎日新聞』12月23日東京朝刊)したという。

 小学校の教員で足りなければ中学校の教員を活用すればいい、という理屈のように聞こえる。中学校の教員は小学校を手伝える余裕がある、という発想なのだろうか。それは、中学校教員は小学校教員より時間的余裕がある、悪く言えば「ヒマだ」という誤解を招きかねない。

 日教組(日本教職員組合)は、約7000人を対象とした「2021年 学校現場の働き方改革に関する意識調査」の結果を今年12月15日に発表している。それによれば、勤務日(月~金)における学校内勤務時間の1日平均は2021年において、小学校で10時間32分、中学校で11時間14分となっている。単純に比較すれば小学校教員より中学校教員の勤務時間のほうが長く、「余裕」もないし、「ヒマ」でもない。

 そのうえ「小学校でも授業をしてこい」となれば、中学校教員の負担は増え、忙しさに拍車がかかることになる。25年度までに3800人の加配定数増そのものにも、「それだけの増員だけで足りるの?」という疑問はある。足りないことでの負担は、既存の教員にのしかかってくる。教員数が足りないなかでの教科担任制実施は、学校現場にさらなる多忙化をもたらすにちがいない。

 2000人の要求を950人に抑え込んだ財務省の理屈は、中学校教員をさらに忙しくすることを前提にしている、と受け取られても仕方ない。そして、そんな財務省の理屈を納得したとすれば、文科省も教員の多忙と真剣に向き合うつもりがあるのか疑わしいといわざるをえない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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