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部活をなくせば教員の残業時間は減るけれど、新たな問題が生まれてくる

前屋毅フリージャーナリスト
(提供:アフロ)

 北海道教職員組合(北教組)が行った組合員を対象にした調査で、部活が教員の時間外労働、つまり残業を増やしていることが改めて明らかになった。教員の働き方改革のなかで部活についての議論は不可欠だが、単純に部活を廃止したからといって問題がすべて解消するわけでもなさそうだ。

|中学・高校で教員の残業時間が減少

 北教組が今年9月1日から9月30日の期間について行った「勤務実態記録」の集計結果を公表している。文科省は教員の残業時間の上限を月45時間としているが、それに近いのは小学校の教員だけで、時間外在校時間(残業時間)は平均45時間34分となっている。それにしても、持ち帰り業務が平均12時間10分となっているのだから、改善されているとは言いがたい。

 さらに注目すべきことがある。昨年も同様の調査が行われているのだが、昨年と今年を比較してみると、残業時間について「中学校と高校での減少が顕著である」という結果になっていることだ。

 中学校教員の今年9月の平均残業時間は49時間16分で、昨年の66時間46分より「17時間30分」も減少している。高校教員では今年が55時間05分で昨年が70時間57分で、「15時間52分」の減少になっている。

 昨年9月と今年9月の大きな違いは、「緊急事態宣言です」(北教組)という。北海道では今年8月27日から9月30日まで新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)による緊急事態宣言が発出されていたが、昨年9月は新型コロナ禍のなかではあったものの、緊急事態宣言はでていなかった。

 単純に緊急事態宣言の影響なら、小学校でも同じように残業時間の減少がなければならないはずだ。ところが小学校では、昨年の48時間33分に対して今年は45時間34分である。減少したのは2時間59分でしかない。中学校の17時間30分、高校の15時間52分に比べれば、減少幅がかなり少ない。その理由を北教組は、「部活だと思われます」と説明する。

 部活は中学校や高校にはあるが、基本的に小学校にはない。緊急事態宣言で学校活動と同時に部活も制限され、それが残業時間の減少幅の差になっているらしい。部活が教員の残業時間を増やし、負担になっていることはまちがいない。

|ただの追い出しでは問題解決にならない

 教員の残業の多さに部活が影響していることは、文科省もすでに承知している。昨年9月1日の学校における働き方改革推進本部の会合では、教員の長時間労働を是正する一環として、これまで学校の管理下にあった休日の部活に関する業務を学校の外に移す方針を示している。2023年度から段階的に実施する予定でもある。

 しかし、この文科省の方針で問題が解決するわけではなさそうだ。北教組は部活を学校教育から社会教育に移管する基本方針ではあるが、「簡単にはいかない」と説明する。

「北海道内でも、外部の指導者に任せたり、民間企業に委託するなど、文科省の方針を実施する試みが一部で始められています。しかし平日は教員が指導して休日は外部指導者に任せるとなると、複数の指導者の下で活動することになり混乱を招きかねません。さらに外部指導者は不足しているのが実情で、民間企業に委託しているケースでは教員が民間企業での兼業で、そこから派遣されるかたちをとっているところさえあります」

 兼業で部活の顧問をやれば、その時間は教員としての残業時間に含まれない。ただし、教員の仕事をこなし、そのうえで兼業としての部活の仕事をやることになるわけで、教員個人の仕事が減るわけでもないし残業時間も減らない。教員としての勤務時間を減らすことになっても、上辺だけの〝トリック〟にすぎない。

 部活を外部委託して教員の残業時間を減らすなら、指導者の確保手段を優先して考える必要がある。人件費を安く抑えようとしてのボランティア頼りでは、簡単に集められるわけがない。

 平日と休日で指導者が違うことの弊害も、真剣に考えなければならない。部活の顧問を教員が強制されるような現状が許されていいわけではないが、部活の指導を希望している教員がいることも事実だ。部活を学校の外部に委託することで、それこそプロを目指す子どものためだけの部活になってしまいかねない懸念もある。

 教員の勤務状況そのものを改革せずに部活の外部委託だけが優先されることになれば、見かけの残業時間は減るかもしれないが、新たな多くの問題が確実に生まれてくる。〝トリック〟でしかない施策は、子どものためにも教員のためにもならない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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