Yahoo!ニュース

無観客開催パラリンピックなのに学校参観だけは実施で物議、「責任丸投げ」にならないことを期待したい

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

 緊急事態宣言を茨木や栃木など7府県を追加し、すでに発令されている東京など6都府県の宣言も9月12日まで延長することを17日に政府は決めた。そうしたなかで東京パラリンピックは無観客開催にするが、小中高校生の観戦は認めるというチグハグさが物議を醸している。しかも、政府が責任逃れしているのではないかとの疑問ももたれつつある。

|無観客なら学校観戦もなし、と萩生田文科相

 今月6月8日の参議院文教科学委員会で石川大我参議員は、オリンピック・パラリンピックが無観客開催になったときに小中高校生らが学校単位で参加する「学校連携観戦プログラム」(学校観戦)で子どもたちだけが観戦するのは問題ではないかと質問している。それに萩生田光一文科相は、「子どもたちだけは現場に行って見ますということはあり得ません」と答えている。無観客開催なら学校観戦もあり得ない、と断言しているのだ。

 しかし、東京パラリンピックの無観客開催が決まったにもかかわらず、学校観戦は実施可能となった。

 東京パラリンピックの24日開催を前に、政府や東京都、大会組織委員会、国際パラリンピック委員会(IPC)の4者による協議が16日夜に行われた。そこで「原則無観客」が決まったのだが、同時に学校観戦については、希望者のみで実施することが決められたのだ。新型コロナウイルス感染拡大予防の観点から無観客としたにもかかわらず、小中学校の児童生徒だけには観戦させるということで、「子どもらの感染リスクを無視している」といった批判の声も高まっている。

 学校観戦の実施については、早くから動きがあったようだ。8月10日付けの『産経新聞』(電子版)は、「政府は小中高生にチケットを割り当てる『学校連携観戦プログラム』を予定通り実施するため、会場のある東京都など4都県と連携し、各教育委員会などへの協力要請に乗り出した」と報じている。政府として、早くから根回しを行っていたわけだ。そして無観客開催でも学校観戦は実施が決まったことになる。

 ただし、政府や文科省が学校観戦について最終判断をするわけではない。保護者等の意向を踏まえて自治体や学校が希望する場合にのみ実施できる、としている。つまり最終判断をするのは自治体や学校であって政府や文科省ではない、ということにしている。裏を返せば、問題が生じた場合の責任は最終判断した自治体や学校にあり、政府や文科省にはない、と防御線が張られたことにもなる。

 そういう防御線が許されるのだろうか。実は、政府が責任をとるような発言を、菅義偉首相も萩生田光一文科相もしているのだ。

|主体的な関わりを首相も文科相も発言

 萩生田文科相が無観客なら学校観戦もないと発言した前日の6月7日の参議院決算委員会で、水岡俊一参院議員がオリンピック・パラリンピックの学校観戦について質問している。学校観戦による子どもたちの感染リスクについて「政府は関与しない、子どもたちも観戦に行くんだったら行ってもらっていい、そういう立場ですか」という水岡議員の質問に、「文部科学省で判断をする、そういう形になるというふうに思います」と参加判断には文科省が主体的にかかわると受け取れる答え方をしているのだ。

 萩生田文科相も、「文科省と地方自治体と連携を取りながら、支援策を講じながら、もし可能ならこれは是非子供たちにも見せてあげたいという気持ち私ございます」と、文科省が積極的に支援策をとりながら、主体的にかかわっていく姿勢を明らかにしている。

 しかし実際には、自治体や学校が最終判断するとして、政府と文科省の責任はウヤムヤになってしまっている。

 最終判断を自治体や学校に任せたことは、自主性が尊重されたといえなくもない。「隣の学校は参加するが、登校は参加しない」という判断もできるからだ。

 ただし、責任までも丸投げされるとなれば、問題である。「希望」という条件だとしても、参加を促す根回しをふくめて政府の意向があるのは確かだ。

 パラリンピックでの選手たちの健闘は応援したい。それでも、絶対にあってはならないことだし、無いことを願うのだが、もしも学校観戦で問題が生じた場合には、自治体や学校に責任を一方的に押し付けるのではなく、政府と文科省が積極的に責任を引き受けていく姿勢をとることを期待したい。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

前屋毅の最近の記事