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「生き生きできる場」を求める子どもと保護者のニーズに応える教室が評判になっている

前屋毅フリージャーナリスト
いもいも教室主宰の井本陽久さん   (撮影:筆者)

子どもたちは「生き生き」できる居場所を求めている。そして保護者も、我が子が「生き生き」とする姿を望んでいる。そのニーズに応えているのが、「いもいも教室」の授業ラインアップのなかのひとつ、「表現・コミュニケーション教室」だ。いもいも教室は、名門進学校で「子どもたちが考えつづける授業」を数学教員として実践してきた井本陽久が、その職を辞してまで始めた教室だ。

■「生き生き」を求める保護者が増えている

「保護者も、いくら勉強ができても、それだけではダメだと感じています。生き生きしていてほしい、と考えているんです」と、井本さんは言う。しかし現実は、学校で生き生きできない子が増えている。

「自分で決めて、自分でやって、それを面白がる。それをやっていれば、子どもたちは生き生きしているはずです。しかし学校は、自分で判断してはいけない、自分の判断に従えば怒られる、面白いわけがない。そういう学校は子どもたちにとっては安心できる居場所ではないし、生き生きできる場でもなくなっている」(井本さん)

 といっても、表現・コミュニケーション教室を、彼が意識してやろうとしたわけではなかった。いもいも教室で井本さんが主に担当する数理の教室には、いろいろな子たちが集まってくる。初対面だったり、月に何回か顔を合わせるだけの子どもたちが多く、その雰囲気になかなか馴染めない子も少なくないし、成績ばかり気にしている子も多い。そのために本来の数理の才能を発揮できず、自信を失ってしまっている子もいた。

 そこで井本さんは、数理の授業のなかでも、子ども同士がコミュニケーションをはかり、協力し、面白がることのできる仕掛けを取り入れていく。クイズのような問題をだしたり、グループで話し合ったりすることで、子どもたちが生き生きとしていく。それが人気を呼び、それなら、そこだけ取り出した授業をやってみようか、というので始まったのが表現・コミュニケーション教室なのだ。

「かなり人気があって、いまは数理のクラスの生徒が50人くらいなのに、表現・コミュニケーションは100人を超えています。両方のクラスに在籍している子もいますが、それにしても表現・コミュニケーションのほうの参加者が多いわけです。それくらいニーズがある」と、井本さん。

■だんだん生き生きしてくる子どもたち

 その表現・コミュニケーション教室の体験授業があるというので、見学させてもらった。小学生のクラスで、この日、集まったのは9人である。初対面同士でもあり、授業前はどの子も緊張しているようだった。

 授業なのだから、講師がいろいろ子どもたちに教える光景を想像していたのだが、あっさりと裏切られた。授業というけれど、中身はゲームみたいなものばかりだ。あとで井本さんに「遊んでいるようにみえますね」と訊ねると、「まさに遊んでいるんです」と即答されてしまった。

 授業は講師が交代しながら司会を担当し、「あるなしクイズ」から始まり、「ツッコミあて」や「はやおししりとり」といったワークが次々とすすんでいく。それは講師と一緒に遊んでいるようであり、講師も一緒になって楽しんでいる。最初は緊張して遠慮気味だった子どもたちが、ワークがすすんでいくにしたがって、積極的に発言もするし、ワークにも熱中している。子どもたち同士で、競いあい、協力しあっている。そこには、生き生きとした姿があった。

体験授業の日に行われたワークの一覧  (撮影:筆者)
体験授業の日に行われたワークの一覧  (撮影:筆者)

「あのワークも、私がつくってきたことをやれば確実にうまくいくんです。でも、うちの講師たちは自分なりのアプローチで考えて、いろいろなワークをつくってくる。最近では私が口出しする余地がなくなってきました」と言って、井本さんは笑った。

 テストの点数や入試での合格にストレートにつながるわけではないと、こうしたワークを否定する保護者も少なからずいるはずである。ただし、見学させてもらった体験授業もそうだが、すでに表現・コミュニケーションのクラスを受講している100名を超える子どもたちが存在し、その保護者たちは授業料という経済的負担を引き受けている。その価値を認めているからである。

 それが「テストの点数につながる可能性もある」などと、野暮なことは言わない。子どもが生き生きしている、そのものに価値を認めている保護者が確実に存在する。

■生き生きできる場が学校であればベスト

「先ほども言いましたけど、居場所を求める子どもたちが存在し、それに目を向ける保護者も増えてきている。まだ全体的には少数派なのかもしれませんけど、確実に親も変わってきています。そういうニーズがあるにもかかわらず、受け入れる場所がない。だから、いもいも教室でやるしかない」

人指し指で鉛筆を支え合っての「フィンガーダンス」に夢中 (撮影:筆者)
人指し指で鉛筆を支え合っての「フィンガーダンス」に夢中 (撮影:筆者)

 そう井本さんは言った。さらに続ける。「その受け入れ場所が学校というのが、いちばんいい。そういう学校になれば、いもいも教室がやる必要はない。いもいも教室がやる必要がなくなるのがベストなんですけどね」

 子どもや保護者が変化してきているなかで学校が変わっていけないなら、いもいも教室の存在感がますます大きくなっていくことになるのだろう。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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