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ふらりふらりのデジタル教育行政で学校現場は混乱するかも

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 萩生田光一文科省に平井卓也デジタル改革担当相、そして河野太郎行革担当相の3大臣が会合を行って、教育のデジタル化について意見交換を行ったそうだ。

 そこで、近い将来に原則としてデジタル教科書に移行し、無償化の対象とする考えで一致したそうだ。「ほとんどの教科書でデジタル化はできている」(文科省官僚)というのだから、デジタル教科書の実現は難しいことではない。

 ただし、そのデジタル教科書のほとんどが、現状では「有償」である。紙の教科書は無償でデジタル教科書が有償では、利用が広がるはずがない。それでも教科書のデジタル化がすすんでいるのは、文科省も教科書会社もデジタル化が避けられないと判断しているからにほかならない。

 3大臣がデジタル教科書への移行で一致したといっても、実は画期的なこなどではなく、現在進行中の流れを確認したにすぎないのだ。紙の教科書も無償でデジタル教科書も無償では財政的な負担が大きくなるので、負担を増やしたくない国としては、無償を前提にするなら、どっちかに絞りたいはずである。だから、デジタル「だけ」にして紙を廃し、それで負担を増やさずに無償化も継続しましょう、と確認したにすぎない。

 平井担当相は「紙の良さも残す」と3大臣会合で話したとされるが、閣議後の記者会見では「私からGIGAスクール構想で1人1台端末が配備されることを前提に、教科書については原則デジタル教科書にすべきではないか。それに伴い、現行の教科書制度の見直しを(3大臣会合で)提起した」と述べている。デジタル教科書への移行を提起したのは自分だと誇りながら、紙も完全否定はしない、批判を避ける便法でしかないようにおもえる。先に述べたように財政的なことを考えればデジタルも紙もとはなりにくいのだから、その問題からはのらりと逃げているようにしか映らない。

 平井担当相も述べているように「1人1台端末」が前倒しされた現状では、デジタル教科書も当然となってくるのが流れともいえる。そして、その先にあるのがオンライン授業だろう。

 そもそも「1人1台端末」が前倒しになったのは、新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)で長期休校になっているなかで、1人1台端末が実現していなかったためにオンライン授業をできない学校が多くあったことが大きな理由だった。それからいけば、1人1台端末が実現し、デジタル教科書も原則になるなら、小中学校でもオンライン授業が普通になってもいいはずである。

 ところが萩生田文科相は10月6日の閣議後記者会見で、「すべての授業がオンラインで代替えできる、授業日数にカウントする、というのはいまの段階では考えていない」と述べている。オンライン授業に慎重というか、否定的ともおもえるコメントをしているのだ。

 オンライン授業がダメなら、デジタル化の意味は半減する気がする。一方では1人1台端末を急ぎ、教科書のデジタル化に前のめりになるなかで、デジタル化の最大のメリットでもあるオンラインには尻込みなのだ。オンライン授業を授業日数にカウントしないのなら、学校現場が納得できる根拠を示す必要がある。

 デジタル化で何をやりたいのか、のらりのらりなのだ。これでは、現場が混乱するばかりである。デジタル化を急ぐよりも、何のためにデジタル化を促進に、デジタル化で何を実現すべきかを、まずは示すのが先ではないだろうか。それを示さないのでは、学校現場が戸惑ってばかりで終わることにもなりかねない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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