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少人数学級実現でも教員の正規雇用を増やすつもりは毛頭ないのかもしれない

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 少人数学級について、菅義偉首相も推し進めていく方針らしい。9月18日の閣議後会見で萩生田光一文科相は、少人数学級の実現について説明したところ、菅首相が「ぜひ進めてくれ」と言明したと述べている。

 そして萩生田文科相は、「物理的に安心安全な学校をつくっていくために、少人数学級は必要だ。財政当局にも必要性を真正面から訴え、実現に向けて努力したい」とも語っている。今月末に迫っている来年度予算概算要求に少人数学級の必要経費を盛り込む考えを表明したわけで、菅首相の言質もとったことだし、自信満々というところらしい。

 ただし、この日の萩生田文科相の発言には、かなり気になる部分もあった。少人数学級を実現するなら、増える学級数に応じて教員の数も増やさなければならない。学級には必ず担任教員が必要になるからだ。教員を増やすことについて、萩生田文科相は次のように語ったという。

「(少人数学級の実現には)教員の数を増やしていくという実態があるけれども、(児童生徒には)18歳人口と0歳人口が40万人も違うぐらい自然減がある。児童生徒数が減っていく中で、クラスの数が増えたとしても、教員の数はそんなに大きく変わらないのではないか」(『教育新聞』9月18日付)

 なんとも奥歯に物が挟まったような言い回しである。児童生徒数が減っているのだから教員の数は増やす必要はない、と言っているように受けとれる。少人数学級の実現には積極的でも、それにともなう教員の増員については消極的というわけだ。

 ただし、児童生徒数の減少による学級数の減少は差し迫った問題ではない。早急に少人数学級を実現しようとすれば、間違いなく教員数の不足が立ちはだかる。

 この問題を、どう解決するのか。萩生田文科相をはじめ文科省の考えていることは明白で、「非正規教員」で乗り切ろうとしているにちがいない。非正規教員で当面の少人数学級を実現し、児童生徒数が減ることで教員数が必要なくなれば、非正規教員だからバッサリ切れる、と目論んでいることが萩生田文科相の発言にはチラチラしている。

 非正規教員は「すぐにでも切られる存在」として、菅首相や萩生田文科相が大々的にアピールしている少人数学級実現の実動部隊となる。少人数学級の実現で菅首相や萩生田文科相は株を上げるかもしれないが、そのために不安定な非正規教員が増えることになるのだ。

 非正規教員を犠牲にして、かたちだけの少人数学級を実現しても意味がない。非正規教員の活用を考えているなら、非正規教員が誇りをもって、安心して学級運営に取り組める環境を整えることも考えなくてはならない。

 萩生田文科相が質のともなった少人数学級を実現するつもりなら、そこまで考えた予算要求でなくてはならない。どういう予算要求をするのか、注目される。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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