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「3100人の教員増員」が新型コロナ対策になるのかという疑問

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

 新型コロナウイルス感染症(新型コロナ)の影響によって長期化した学校の休業(休校)から再開するにあたって、感染リスクの高い地域の小中学校を対象に教員を増やす方針を政府は固めたようだ。感染リスクを回避しながらの授業再開を実現するために「少人数授業」を文科省も推奨している。

 ただし、そこで問題となってくるのは教員の数である。例えば、1クラスを2クラスに分けることで少人数授業を実現しようとおもえば、教員を1人から2人へと増やさなければならない。中学では科目ごとに担当が違うので、教員の増やし方も複雑になってくるはずだ。

 これに対応するために政府が増員する教員の数は「3100人」だという。「これで足りるのか?」というのが、素朴な疑問ではないだろうか。

 東京都だけでも公立小学校が、1267校(2020年4月現在)ある。公立中学も、603校(同)だ。東京都だけに増員するとしても、1校に2人は増員できないことになる。「感染リスクの高い地域で小6と中3を優先」としているものの、少人数学級を実現するには、あまりにも少なすぎるのではないだろうか。

 さらに、増員が少人数学級の実現につながるのかどうかも疑問である。2019年10月20日付の『東京新聞』は、「教員不足 公立小中500人 本紙1都6県アンケート」という見出しで、独自に調査した記事を載せている。関東1都6県(東京、神奈川、千葉、埼玉、茨城、栃木、群馬)の計39の自治体の教育委員会を対象に行ったアンケート調査だが、「調査結果によると、小学校では13自治体で常勤344人、非常勤39人が不足。中学校も13自治体で、常勤83人、非常勤37人が不足していた」という。そして、「小学校では学級担任13人が、中学校では学科担任23人が不足していた」とも伝えている。

 首都圏でも深刻な教員不足状態にあるのだ。首都圏だけの問題ではない。『朝日新聞』(2019年8月5日付)が「公立小中、先生が足りない 全国で1241件『未配置』」という、これも独自調査の記事を載せている。

 同記事は、「教育委員会が独自に進める少人数学級の担任や、病休や産休・育休をとっている教員の代役などの非正規教員が見つからないためで、朝日新聞が5月1日現在の状況を調査したところ、1241件の『未配置』があった」としている。そして、「学校では教頭が代わりに授業をしたり、少人数学級をあきらめたりしており、教育の質にも影響が出かねない」とも記事は述べている。

 ただでさえ、全国的に教員不足なのだ。現状でも教員が不足している学校に新型コロナ対策として増員されたとしても、ようやく「普通」を取り戻せるかどうかであって、1クラスを2クラスに分けての少人数授業が実現できるのかどうか疑わしい。

 3100人だけの教員増員で事足りるとは、政府・文科省も考えていないはずである。学校の実態を理解していれば、これでは足りないとおもっているにちがいない。

 教員不足を根本的に解決していかなければ、効果的な新型コロナ対策にもつながらない。3100人の増員だけで「自分たちの責任は果たした」とは考えず、新型コロナをきっかけに政府・文科省が教員不足の根本的な解決に乗り出すことを期待したい。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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