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調査の意味を忘れているのか、全国学力テストの取りやめ発表

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:Natsuki Sakai/アフロ)

 やはり、全国学力テスト(全国学力・学習状況調査等)の正体がバレてしまった。17日の閣議後記者会見で、萩生田光一文科相は4月16日に予定されていた全国学力テストの実施を「取りやめる」と発表した。

 17日の朝、萩生田の記者会見前にアップした記事で、わたしは「一斉休校のために、そのテスト対策が順調に行われていない。準備不足のまま全国学力テストに臨まなければならないわけで、順位を気にする自治体や学校にしてみれば不本意であるにちがいない。準備不足のために順位を下げる可能性もあるわけで、延期してもらいたいと考えているかもしれない」と書いている。記者会見の席で萩生田は、取りやめる理由を次のように語ったという。

「多くの学校で授業が行われておらず、態勢を整えるために時間を要したり、未指導部分を調査の前日までに教えることが難しかったりする学校がある。教育委員会などから延期、中止を求める声があった」

 まさに、わたしが指摘したとおりではないだろうか。「態勢を整えるための時間」とは、試験対策のための時間としか聞こえない。

17日の記事「延期で全国学力テストの正体がバレてしまうのか」

 文科省は全国学力テストについて、一貫して「調査である」と説明してきている。未指導部分が結果に反映されれば、それは貴重なデータになるのではないだろうか。休校の影響も結果として現れてくるかもしれない。調査であれば、それらのデータこそが貴重であり、今後に生かされるものになるはずだ。調査をやる意味もある。

 それを無視したかたちでの「取りやめ」では、全国学力テストが「調査」を主目的にしていないと受け取られても仕方ないだろう。

 萩生田による発表があった同じ日に文科省は、都道府県教育委員会や都道府県知事などに宛てて、総合教育政策局長名で「通知」をだしている。そこには、次のように記されている。

「3月2日から春季休業の開始日までの間の新型コロナウイルス感染症対策のための小学校、中学校及び特別支援学校等における一斉臨時休業の影響を考慮し、同日の実施は取りやめることとしましたので、お知らせします」

 一斉休校と全国学力テスト取りやめの関係が、まるで分からない。一斉休校でテスト対策ができていないので取りやめる、としか読めないのだ。

 しかも、通知は次のように続いている。

「今後の取り扱いにつきましては、令和2年度中に実施するか否かも含め、今後改めて検討し、あらかじめ十分な時間的余裕をもって決定し通知することとします」

 中止なのか延期なのか、まだ決まっていないわけだ。延期になった場合、例年と違う時期に実施して調査としての意味があるのか、という指摘もある。ただ、全国学力テストの結果が、いつものようにランキングに利用されるだけのことだ。そこまで文科省は考慮しているのだろうか。

 新型コロナウイルス感染症による今回の中止、もしくは延期の措置は、全国学力テストの意味を問い直すきっかけにしなければならない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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