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教員採用者の奨学金返済免除は問題だらけ

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

 教員採用試験の応募倍率や受験倍率が低下していると話題になっているなかで、自民党の文部科学部会が、教員として採用されれば大学在学中の奨学金の返済を免除する仕組みを検討するよう求める要望書をまとめたそうだ。奨学金返済が大きな負担となっている現在、魅力的な制度のようにおもえる。しかし、実は、かなり問題のある制度でしかない。

 第一に、教員だけを特別扱いすることに問題はないのだろうか。教員が免除されるなら、公務員だって免除されていい。奨学金返済が負担になっているのは、民間企業に就職する人にとっても同じだ。そこは無視していいのだろうか。

 第二に、奨学金返済が免除される対象は、これから教員に採用される人たちだろう。奨学金を現在も返済している教員、すでに奨学金を返済してしまった教員については、どうなるのだろう。何もしなければ、必ず不満はでてくるにちがいない。

 第三に、奨学金を受給していない学生だっている。そういう人たちにはメリットがないことになる。この不満も小さくないはずだ。

 奨学金返済免除が制度化されれば、これだけの不公平が想像される。学校に、わざわざ不公平をもちこんでしまうわけで、得策ではない。

 そもそも現在の学校における大問題は、残業代もなしで長時間労働を強いていることにある。そこを解決しないのでは、教員になることへの不安が消えることはない。議論すべきは、そこではないだろうか。

 肝心の議論は脇に置いといて、奨学金返済免除という目先だけのことで教員志望者を増やそうとしているとしかおもえない。そんなものでは、教員志望者が増えるはずもない。

 返済負担が大きいことをはじめ、奨学金制度そのものが問題になってきている。奨学金返済免除で教員志望者を集める道具にするのではなく、奨学金そのものの議論を優先すべきである。

 大事な議論はしないで、「馬の鼻先に人参をぶら下げる」ような制度ならば、問題を増やすだけのことになる。いま必要なのは、根本的な議論である。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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