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改めて感じる派遣のブラック度

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:アフロ)

「一流企業に就職してもらいたいという親の思いは強くなってきていますが、同時に、派遣など非正規ではなく、絶対に正社員になってほしいという親も増えています」とは、ある大学の就職支援担当者の話である。

 手軽に仕事先がみつかる派遣という働き方は、若い人のあいだでも増えているという。それでも親にとっては、「我が子には選んで欲しくない仕事」でしかないのだ。派遣の待遇を知れば、そうした親の切なる思いも理解できる。

 

 今年4月から、事務派遣大手各社が派遣社員に交通費を支給する制度を導入するという。

「待遇改善が進んでいるのか」とおもう反面、「これこそブラックじゃない?」というのも感想である。

 正社員では普通に支給されている交通費が、派遣社員には支給されていなかったのだ。一般事務の派遣社員は国内に約60万人もいるそうだが、交通費の支給を受けているのは、そのうち2割でしかないという。

 交通費は企業が任意で実施する法定外の福利厚生であるため、法的な支払い義務はない。とはいえ、正社員に交通費を支払わない企業は希でしかないだろう。にもかかわらず、ほとんどの派遣社員に交通費が支払われていないのは、派遣先である派遣会社が法的根拠がないことを理由に支払いを拒否してきたからだ。

 交通費は、仕事先に行くためには絶対に必要なもので、必要経費である。法的根拠があろうがなかろうが、支払われて当然のものだ。実際に正社員には支払われているのだから、「差別」でしかない。派遣は差別されている。

 そんな働き方を求めている派遣会社は、まさに「ブラック企業」といえる。親に敬遠されるのは当然で、働く本人も積極的に選ぶとはおもえない。

 そうしたなかで、一般事務の派遣社員は人材不足に陥っているという。派遣会社が交通費の支給を決めたのは、人材不足を補うためでしかないのだ。本気で人材不足の解消を考えているのなら、交通費などケチなことをいっていないで、より正社員に近い待遇を実現すべきだろう。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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