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英語塾は儲かるのか?

前屋毅フリージャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 英語熱が、ますます高まっている。次期学習指導要領で、2020年度から小学校に英語が正規科目として導入されることになっている。

 その20年度まで待てず、すでに小学校で英語教育をスタートさせている例も珍しくない。福井県は18年度から6年生に英語科、3~5年生には英語活動を実施する方針を明らかにしている。英語教育の前倒しで、福井県教育委員会は「県内一斉に英語導入を前倒しするのは福井県だけ」と胸を張っているようだ。

 ただし、同県の教員からは不満の声も多い。小学校での英語授業は基本的に担任が受け持つが、その教員たちにじゅうぶんな指導能力があるかといえば、疑問である。小中高大と英語を勉強してきても話すことも書くこともできないのが従来の日本の英語教育で、大半の小学校教員は、そうした英語教育しかうけてきていない。いきなり「英語を教えろ」といわれても、尻込みするしかないのだ。そうした教員に指導されても、子どもたちにほんとうの力がつくともおもえない。

 にもかかわらず、20年度からの正規科目化は決まってしまっている。そこで好成績をあげるためには、早くからの取り組み、と考えてしまうのも無理はない。そして、前倒しとなっているわけだ。

 この状況に不安を感じているのは、なんといっても保護者である。学校の不十分な体制は言われずともわかっているし、かといって英語が正規科目になれば我が子には良い成績はとらせたい。なにより、英語、英語とうるさくなっている環境で、「我が子に英語力をつけさせねば」という思いだけは募ってくる。

 そうした保護者の思いに応えることで、ビジネスチャンスにつなげようとしているのが英語塾である。「特に英検対策講座の受講者が急激に増えて、大忙しです」と、東京都内の学習塾で英語を教えるベテラン講師がいった。これからの大学入試で重要な位置を占めるのが英検で、そのために小学生のときから対策に取り組ませようとの親心である。

 英語塾にしてみれば、ビジネスチャンスにはちがいない。ただ喜んでばかりもいられないのが実情で、生徒を取り合う競争が激化してきているという。

 入塾金を無料にしたり、入塾して数ヶ月分の授業料を無料にしたりと、必死の生徒集めが展開されている。なかには、1年間授業料無料という大胆な策を打ち出すところまででてきているそうだ。

 そうなると、必要になってくるのは資金力である。授業料無料に資金力のある大手塾は耐えられても、資金力に乏しい個人経営の塾は耐えられない。大胆な策をとらなければ、生徒は集められない。「実際、個人経営の英語塾は淘汰されつつあります」と、先ほどのベテラン塾講師はいった。英語塾は弱肉強食の時代に突入しているのだ。

 文部科学省が火をつけている英語熱は、どんどんエスカレートしているが、英語塾業界を大手しか生き残れない状況に追い込みつつある。

 

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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