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「人生100年時代構想」は何が目的なのか

前屋毅フリージャーナリスト
写真:著者撮影

 政府の「人生100年時代構想会議」(議長・安倍晋三首相)は今月19日の会合で、「中間報告(案)」を了承した。それを新聞各紙は20日朝刊で報じているが、『読売』の記事が政府の意図を見事に表現しているようだ。

 同記事は、「『人づくり革命』関連施策を原則すべて盛り込み、『経済成長への寄与の観点からも、幼児期からの人材投資の拡充が生産性向上につながる』と強調した」と書いている。「経済成長の寄与」を印象づける記事だ。

 この部分は、中間報告(案)の第2章「幼児教育の無償化」で述べられている。「人工知能などの技術革新が進み、新しい産業や雇用が生まれ」というお馴染みの将来認識のあとに、こうした状況に対応していくにはコミュニケーション能力や問題解決能力が重要と強調し、「こうした能力を身につけるためにも、幼児期の教育が特に重要」としている。そして、前述の部分につながっていく。

 つまり、新しい産業や雇用に対応するために幼児教育が必要であり、それを幅広く行うために無償化も必要だというわけだ。幼児教育だけではなく、それを中間報告(案)は「人生100年」の全般にわたって要求している。幼児から100歳まで新しい産業や雇用に対応すべきだ、といっているのだ。

 それを象徴しているのが、「人づくり革命」にふれた第1章の次の部分である。

「少子高齢社会においても経済社会の活力を維持していくためには、人材の質を高めることによって潜在成長率を引き上げていくことが必要であり、こうした面からも、人への投資を強化し、人づくり革命を断行することが必要である」

 幼児から100歳にいたるまで質を高めていく努力が必要だが、それは「経済社会の活力を維持していく」という目的のためだ、といっているにすぎない。ここには、「個人の尊重」はない。

 こういう考え方をすすめていけば、必ず落ちこぼれがでてくるし、格差もひろがる。そういう社会に向けて突き進んでいることを、考えてみる必要がありそうだ。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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