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テレワーク定着に立ちふさがるのは「日本人の病」かもしれない

前屋毅フリージャーナリスト

 政府が呼びかけた24日のテレワーク一斉実施日に、首都圏を中心に927の企業や団体が実施し、約6万人が参加したという。これでテレワークが一気に拡大か、と思いたくもなるが、そう簡単ではないだろう。

 テレワークとはパソコンやネットワークを駆使した在宅勤務で、出勤する必要がないので社員は時間を有効に使え、効率も上がると考えられている。通勤者が減るので、首都圏の地獄のような通勤ラッシュの緩和につながる可能性も高い。

 実際、今回の政府が音頭をとった一斉実施も、2020年の東京五輪・パラリンピックの際に観光客も増え、通勤ラッシュ時の交通混雑がいっそう激化すると考えられているからだ。五輪・パラリンピック関係者の移動を優先して働く人の通勤は控えさせよう、というのである。そもそも、そんな交通混雑地域で五輪・パラリンピックを開催すること問題がありそうだ。

 ともあれ、テレワークは推進すべき課題ではある。連日の猛暑のなかをすし詰め状態の電車で通勤すること自体が、もはや正気とはおもえない。その解消のためにも、通勤を省ける働き方は必要とされていることはまちがいない。

 テレワークは、五輪・パラリンピックに合わせて開発されたものでも、注目されたものでもない。かなり以前から、テレワーク導入の必要性は叫ばれ、導入の努力をする企業も少なくなかった。しかし、それが定着したといえる状況からほど遠いのが現実でもある。

 通勤が省ければ精神的にも肉体的にも楽になり、仕事に集中できるはずなのに、なぜテレワークが定着しないのだろうか。以前、ある大手企業のテレワーク導入努力を取材していて、気づいたことがある。

 セキュリティをふくめてシステム的には問題のない体制が整っているにもかかわらず利用者が少ない理由を担当者に訊くと、「オフィスに居る姿を見せていないと、仕事していないんじゃないかと不安になるらしいんですね」という答だった。管理職にしても、実際に目の前に部下がいないと、管理できているかどうか不安になるらしい。オフィスに居てもボンヤリしているかもしれないし、目の前の部下は能率の上がらない仕事をしているかもしれない。それでも、同じところに居ることで安心するのだ。

 テレワーク中の社員を訪ねたところ、「サボっているんじゃないかと不安になりますね。だから、しょっちゅうメールや電話をいれてアピールしたりもしまし」と苦笑いしながら話すのを聞いた。こちらも、苦笑いするしかなかった。

 日本のビジネスマンやビジネスウーマンは、仲間から見られるところに居ないと不安なのだ。満員を通り越して過密な通勤電車をガマンして出社するのも、自分が仕事をしている姿を見てもらって、安心するためなのかもしれない。

 そんな不安症候群がなくならないかぎり、日本でテレワークが普及し、定着するのは難しいかもしれない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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