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政府予算での小学生留学を!

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

英語熱は、ますます過熱するばかりだ。英語ビジネスにとっては大チャンスでもあるのだが、そこには大問題が潜んでいる。

グローバル化が叫ばれて「社内公用語」などと変な動きもあり、小学3年生から英語が正規教科になる流れもあるなかで、「英語力がなければ勝ち抜いていけない」という風潮が定着してきているようだ。「子どもの将来のために」と、英語力強化策を模索するのが親の当然の務めのようになりつつもある。それに合わせて、英会話スクールが小学生コースを強化したりと、ビジネスのほうも花盛りだ。

そんななかで、「やっぱり」とおもう記事が目についた。6月17日付の『朝日新聞』(電子版)が、「小学生、夏休みに海外留学 親『早くから生の英語を』というタイトルの記事である。

記事によれば、英語力強化のために夏休みを利用した短期留学が小学生にもひろまっているという。小学生の短期留学プログラムを提供している旅行会社には、ここ数年で小学生の子どもがいる親からの問い合わせが急増している、そうだ。

子どもを日本の小学校に通わせている外国人の親から、「家では英語を使うようにしていたが英語力は伸びない。それが、短期のホームステイをさせたら、驚くほど力をつけて帰ったきた」と聞かされたことがある。短期間で効果的に英語力をつけるには留学こそが最上の方法だ、とは多くの人が認めるところだ。

小学校から正規授業にしてみても、中途半端な学校の教授法では「通用する力」をつけるのはむずかしい。力をつけて、成績を上げるために、英語スクールへ通わせ、さらには留学させる親が急激に増えていくのは当然の流れだろう。その傾向は、すでに始まっているのだ。

ただし、スクールにしても留学にしても先立つものはカネである。『朝日』の記事によれば、フィリピンでの3週間のプログラムに参加するために必要な費用は約50万円だという。誰もが、簡単に出せる金額ではない。

それだけの経済的余裕のある親をもった子どもは、確実に英語の力をつけていける。進学にも仕事でも英語重視の風潮が高まるなかで、そういう子はエリートとして育っていくのだろう。逆に、経済的余裕のある親をもたない子どもにとっては、英語重視の波に乗っていくのは簡単ではない。格差はひろがっていく。

英語が大事、教育が大事と叫ぶ政府なら、小学生からの英語正規化などと中途半端なことではなく、政府予算で全小学生を留学に送りだすくらいのことを考えなくてはダメだろう。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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