震災と少子化のまちに学校がやってくる

4月に開校する飛鳥未来きずな高校(パース画)

希望につながるのか

2011年3月11日に起きた東日本大震災では、宮城県登米市も甚大が被害をこうむった。死者9名、行方不明者4名という痛ましい犠牲のほか、全壊した建物は196戸、大規模半壊は373戸、半壊1107戸、一部損壊は3229戸を数えている。

さらに登米市では、他の地方都市同様に人口減少と少子高齢化が急速にすすみつつある。1990年から2000年までの10年間だけでも、全人口に占める18歳以下の年少人口は20.4%から15.0%に減少したにもかかわらず、65歳以上の高齢人口は17.4%から25.2%にも増えているのだ。

その震災と少子高齢化のまちに、新しく学校が建設される。それが、「飛鳥未来きずな高等学校」である。「きずな」には、もちろん震災復興の願いがこめられている。

しかし、少子化がすすむ地域に学校をつくっても生徒が集まるのか、という疑問が当然ながら湧いてくる。

学校ができれば地域に子どもたちを引きつけておくことができるし、ほかから生徒が集まってくれば、少子化を食い止めることにつながるかもしれない。地域に活気がでてきて、それによって復興が早まることも期待できる。

そんなことが可能なのだろうか。

廃校跡にできる学校

着々と準備がすすめられる校舎
着々と準備がすすめられる校舎

飛鳥未来きずな高校は、廃校した米山高校の跡地を利用してつくられる。少子化で廃校になったのだから、同じような学校をつくってみても、生徒が集まるはずはない。

それでも、飛鳥未来きずな高校は登米市に開校する。それは、同校が「普通」の学校ではないからだ。同校は全日制でも定時制でもない、「単位制・広域通信制」の高校なのだ。生徒は日本全国どこに住んでいても入学ができ、通信教育で所定の単位を取得すれば、高校卒業資格が取得できる高校である。

ただし、まったく通学する必要がないかといえば、そうではない。一定の時限数は学校に通って授業を受けるスクーリングのために登校しなければならない。そのスクーリングのために登米市に通うとなると、宮城県外など登米市から遠いところに住んでいる生徒にしてみればたいへんな負担となる。

そのために飛鳥未来きずな高校では、登米市に置く本校のほかに、全国8カ所にキャンパスと呼ぶ教室を設けている。生徒は自分が住んでいるところから近いキャンパスに通えばいいのだ。

そうなると、登米市の少子化対策や復興につながらないではないか、という疑問につながっていく。もちろん、それについては考慮されている。飛鳥未来きずな高校の運営主体である「学校法人 三幸学園」の設置準備室の阿部正孝氏は次のように説明する。

「選択ですがアグリカルチャーという教科を準備しています。農業体験ですね。それを選んだ生徒は、本校でのスクーリングが必修になります。登米市は東北でも有数の穀倉地帯であり、農業の盛んな土地柄なので、地元との連携もすすめていけば魅力的なスクーリングになると考えています。

さらには、農業を食品加工・流通販売にも業務展開していく6次産業的な広がりでの教育も考えています。すでに地元の生産法人とも話をすすめているし、三幸学園が経営する調理学校などとも協力していく予定なので、魅力的なプログラムになるとおもいます」

農業体験とともに農業に関連する産業まで経験できるのが、飛鳥未来きずな高校の特色というわけだ。とはいえ、必修ではなく選択科目なので、大半の生徒が希望しなければ構想倒れになってしまう。

「今年4月に開校して、徐々に生徒数を増やしていき、予定では定員が3120名です。そのうち7割がアグリカルチャーを選択するような体制にしていきたいとおもっています」 

というのは、三幸学園チャイルドケア事業本部事業開発部マネージャーの藤原高洋氏だ。3000名のうち7割といえば2100名である。その人数が、入れ替わり立ち替わりスクーリングのために登米市に来訪するようになれば、まちとしての活気は違ってくるにちがいない。それがきっかけで登米市に定住するようになれば、人口減にも歯止めがかかるというものだ。

しかし、3000名という定員がほんとうに埋まるのだろうか。さらには、そのうちの7割も、アグリカルチャーを選択するのだろうか。その疑問に、藤原氏が答える。

「すぐというわけにはいきませんが、徐々に増えていって、定員には達するとおもいます。

さらに通信制の特徴にもなってきているのですが、不登校の子たちが多く在籍しています。そういう子たちは、人や社会と接することが苦手なんですね。農業や農業関連産業での体験が、人や社会とふれあうきっかけになる可能性はあります。そうしたニーズにはマッチするプログラムだと自負しています」

不登校と新しい学校

文部科学省の調査によれば、中学校における不登校児童数は1991年度で5万4172人だったが、2015年度には9万8428人となっている。高校については調査が行われるようになった2004年度の6万7500人が、2015年度には4万9591人となっている。

中学では増加傾向にあるにもかかわず、高校では減少傾向になっているようにみえる。しかし、ここにはカラクリがある。

最近になって不登校を受け入れる通信制高校が急増し、その数は全国で200校を超えているといわれる。通信制高校に在籍していれば不登校とはみなされないために、不登校の数は減っているようにみえるだけなのだ。実際には高校においても不登校は増加傾向にあり、通信制高校がその受け皿になっているのが現状なのだ。

飛鳥未来きずな高校も、そうした受け皿の一つというわけである。ただし、アグリカルチャーという他校にない教科によって、生徒が人や社会と交流する機会を提供しようとしている。それが、不登校というかたちで心を閉ざした子どもたちが、再び心を開き、社会のなかで生きていく力をあたえる可能性ももっている。

うまく軌道にのれば、先述したように登米市の活性化にもつながる。学校が地域活性化の役割をはたすことになるのだ。

登米市と飛鳥未来きずな高校を運営する三幸学園をむすびつけたのは三菱東京UFJ銀行で、今回の学校開設には同行がかかわる復興特区支援貸付事業が重要な役割をはたしている。同行の復興官民連携室長の武藤正尚氏が語る。      

「もともと三幸学園から農業を特徴にした通信制高校を展開したいという要望をもらっていて、銀行のほかのセクションで全国を対象にして検討していたんですが、それなら震災復興にもつながるというので、わたしのセクションが引き継いで登米市を紹介させていただいたわけです」

不登校の増加と震災と少子化を克服しての地方創世という、一見、つながりそうもない問題がつながった結果が、飛鳥未来きずな高校の開校である。ともあれ、今年2月段階での応募は100人足らずと、まだまだ定員には遠く及ばない。理想に近づくには時間と努力が必要である。それでも、大きな未来を目指し、飛鳥未来きずな高校は4月に開校し、第一期生を迎えることになる。