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大阪府教委へのダメ押しで自らのチグハグさを露呈した文科省

前屋毅フリージャーナリスト

文部科学省(文科省)は8日、来年度の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の実施要領を公表し、「調査結果を直接または間接に入学者選抜に用いることはできない」と留意事項として明記した。

今年11月、大阪府教育委員会(大阪府教委)が全国学力テストの学校別結果を来春の高校入試の内申点に活用することが明らかになり、これに文科省が反発した。結局、文科省は来春入試の活用だけは認めたものの、以後の使用は認めない考えを示した。それに大阪府教委も従うことを表明している。

つまり今回の留意事項は、文科省が「念押し」したことになる。同省が大阪府教委のやろうとしていたことに「待った」をかけたのは、「全国学力テストの趣旨を逸脱している」との理由からだった。

文科省は全国学力テストを行う目的を、「全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握・分析し、教育施策の成果と課題を検証し、その改善を図る」としている。あくまで学習状況を把握して改善に役立てるためで、競争を煽ったり優劣の評価をつけるためのものではない、というわけだ。

しかし現実には、全国学力テストは「競争の道具」にされてしまっている。全国学力テストの結果が学校を評価したり、ランク付けするための道具になっているのだ。そのため全国学力テストでの順位を上げるために、必死になっている学校は多い。とっくに、文科省のいう目的を逸脱しているのだ。

こんなことになっているのも、全国学力テストが公立小中学校なら全校が参加しなければならない「悉皆方式」となっているからだ。公立全校が同じテストを受ければ、競争が発生するのは誰でもわかることだ。文科省とてわかっていたはずだが、競争防止の手だてをとることなく、悉皆方式をとった。

文科省がいうように「調査」が目的ならば、いくつかの学校を選んで実施する「抽出方式」でじゅうぶん、という意見がスタート当初からあった。それを無視して、文科省は悉皆方式を強行したのだ。

2009年に民主党政権になると抽出方式にされたが、2012年末の総選挙で民主党が大敗して再び自民党政権になると、文科省は悉皆方式を復活させた。その頃には競争による具体的な問題も指摘されていたにもかかわらず、文科省は眼中に無いかのごとく悉皆方式に戻したのだ。

全国学力テストについての文科省の「真意」が競争導入にあることは、疑いようもない。入試に活用する大阪府教委の方針は、まさに文科省の「真意」に沿ったものといえそうだ。

その大阪府教委のやろうとしていることに実施要領の留意事項でまでクギを刺すのは、矛盾の極みといわざるをえない。全国学力テストが調査のためであり、入試のような競争に利用するためのものではない、と口で言っていることが文科省の真意ならば、すぐに悉皆方式から抽出方式に改めるべきである。そもそも、調査のためなら全国学力テストが必要かどうかさえも問題なのだ。

競争を煽っておきながら、競争の道具にしてはいけない、などという矛盾したやり方では、ますます文科省は信頼されなくなる。混乱を招くだけの全国学力テストの有り様もふくめて、文科省は考えなおすべきではないだろうか。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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