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「行政事業レビュー」、おかしな議論

前屋毅フリージャーナリスト

違和感を感じる議論だ。

今月11日、「行政事業レビュー」という各府庁の予算に無駄がないか外部有識者らが公開の場で点検する会合がスタートした。最初のテーマが「子どもの学力向上」で、全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)も議題とされた。

この全国学力テストについてえ出席した有識者から、すべての生徒を対象とした現行方式をサンプル調査に求める意見があった。「状況調査」という言葉が示すように全国学力テストは調査のためのものと文部科学省は説明してきており、それならば「サンプル調査でじゅうぶんではないか」という意見が2007年度のスタート前からあった。そうした意見を無視して、文科省はすべての生徒を対象とする「悉皆方式」を押し切った。

2009年に民主党政権が誕生すると、2010年度からはサンプル調査とする「抽出方式」に切り替わった。しかし、2012年に再び自民と政権になると悉皆方式に戻されてしまった。抽出か悉皆かのしっかりした議論もなく、簡単に戻されてしまったのだ。

そして11日の行政事業レビューで、再び抽出か悉皆かの問題が浮上したわけである。ただし、状況調査のためには、抽出と悉皆のどちらが適切かという問題定義があったわけではなさそうだ。

意見を述べた有識者は、現在の悉皆から抽出に切り替えることで「経費削減を図る」ように求めたのだという。全生徒を対象にするより少ない数でやったほうがカネはかからないだろう、というわけだ。

予算の使い道を検討する場だから、カネの話になるのは当然なのかもしれない。とはいえ、あまりにも教育の質を無視した意見としか言いようがない。

現行の悉皆を抽出に替えることは、文科省が説明する状況調査からかけ離れて、競争を煽る道具になってしまっている状況を考えれば、ぜひ必要なことである。そうした本質を踏まえて議論すべきであって、単純にカネの話の流れで話すべきことではない。

さらに有識者からは、「(全国学力テストの)結果を広く公表し、教員の評価にも活用すべきだ」との考えを示したという。全国学力テストの点数で教員を評価し、もっと教員を働かせ、もっと競争を煽れ、といっているわけだ。

これも、「学力」という本質を無視した意見でしかない。全国学力テストの意義そのものは考慮せず、教員を給料以上に働かせる道具に活用しろ、といっているに過ぎない。それが実現して教員が子どもたちに全国学力テストの点数を上げる指導ばかりに熱中すれば、教育そのものが崩壊する。

「子どもの学力向上」といいながら、ただカネを節約するだけの議論でしかない。そうした議論は、子どもたちのためにならない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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