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新卒一括採用という日本の病

前屋毅フリージャーナリスト

2016年春卒業予定者の就活(就職活動)の会社説明会が、来月、3月から本格化する。経団連(日本経済団体連合会)が採用選考の新ルール適用で、前年の12月1日に解禁されていた会社説明会が、今年は3月1日付になったからだ。ちなみに4月1日だった選考開始は、新ルールでは8月1日となる。

解禁日を遅らせることで学業に専念できる期間を増やす、というのが経団連の狙いらしい。しかし結果は、じゅうぶん予想できていたことだが、混乱を招いているだけのようだ。いつもながらの「お題目先行で現実無視の施策」、でしかない。

経団連といえば、いわゆる大手企業の集まりであり、就活ルールを繰り下げたところで、どうせ学生の大企業指向は変わらないのだから採用には困らない、という思惑があるのだろうか。実際、学生の大企業指向に変化はなく、新ルール適用でも大企業同士の争奪戦という状況に変わりはないはずだ。

ただし、経団連に加盟していない企業のなかには、これをチャンスと受けとっているところも少なくないはずだ。大企業が採用活動にはいる前に学生を獲得しておこう、というわけだ。実際、さまざまなかたちで学生との接触をはかり、早くも内定をだしているところもあるという。

とはいえ、それで安心できるはずもない。内定はもらったものの、大企業で採用活動がはじまり、そちらで内定をもらえば、中小の内定は返上、なんてケースが続出するにちがいない。返上されては企業側も困るので、あの手この手で囲い込みをやり、それが社会問題化することだったありうるだろう。大企業指向の学生も、短くなった就活期間によっててんてこ舞いするのは確実だ。無用の混乱である。

そもそも就活に新ルールをつくっても、「新卒一括採用」という悪しき風習を変えないかぎりは就活の根本的な問題解決はない。短期間に採用を決めて集中的に教育して使える社員にしようというのが新卒一括採用の根源だとおもうが、育てることを放棄して即戦力を求める姿勢に転換したときに、新卒一括採用の存在価値は崩壊している。育てる気がなければ人材は育たない。短期間の採用活動で有能かどうか見極められる力がないことは、とっくに企業側は気づいているはずである。

学生も新卒というワンチャンスで人生を決めようと、必死である。必死すぎて、自分が何をやりたいのかも考えられず、ただただ有名企業の狭き門をくぐる競争だけに熱中する。大学入試と同じで、入ることだけが目標になっているとしかおもえない。

新卒一括採用が企業にも学生にもメリットがないにもかかわらず、それを止められないままに新ルールとやらでごまかして混乱をまねいている。日本企業の実力が、ここにも表れている。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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