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JA全中に「黙れ」なら、経団連廃止も口にしてみたらどうだろう

前屋毅フリージャーナリスト

自民党の農協改革に対する姿勢には、「日本の農業をどうするか」という重要で根本的な視点が欠けている。

12日、自民党で農協改革を検討する「新農政における農協の役割に関する検討PT(プロジェクト・チーム)で座長を務めた森山裕衆院議員が、都内で行われた講演会で全国農業協同組合中央会(JA全中)について、「もう農政(政治)運動はやめたほうがいい。国民の目にどう映っているか。まずいと思う」と語ったそうだ。

JA全中がやっている政治活動の実態について全面的に認めるわけではないが、その政治運動を否定するような発言は疑問だ。農業の当事者が農政に何の発言もせず、ただ政治が決めたことだけに従うだけなど、そのほうが異常である。そんな異常な姿を押しつけるような森山議員の発言は無視すべきではない。

そんな発言が自民党議員に許されるなら、自民党は「経団連(日本経済団体連合会)廃止」も主張すべきではないか。産業界を代表して政治にも関わっている経団連の発言は認めて、農業界を代表して政治活動を行っているJA全中にだけ「黙れ」というのは、おかしなことである。

自民党は、政府のJA全中廃止案を否定して、「別組織」としながらも存続を認める判断をしたばかりだ。森山議員も、その中心人物である。その彼がJA全中に「黙れ」というのだから、JA全中を移行させると自民党が想定している別組織が、政治的発言を禁じられるものであることは、この森山議員の発言からも明らかだ。そんな骨抜き案で妥協して、ただ組織の存続だけに甘んじるならば、まさにJA全中の存在意義はない。

政府のJA全中廃止案を撤回させた自民党の本音は、「選挙に不利になるから」だった。JA全中のもつ選挙での力に遠慮したわけだ。森山議員の「国民の目にどう映っているのか」という発言に答えるならば、「選挙ばかり気にして本来の農業の将来像を重視していない自民党、と映っている」である。

農業のことを考えてではなく、選挙や自分たちのやりたい政治がやりやすいためにJA全中の改革を口にしたり、「黙れ」といわんばかりの発言をするのなら、同じことを自民党は経団連にも言ってみたらどうだろう。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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