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知事に悪のり『静岡新聞』

前屋毅フリージャーナリスト

全国学力テストでの成績下位校の校長名公表方針に非難が集中するや、それならばと、静岡県の川勝平太知事は上位校の校長名を発表してしまった。つまり、公表されなかった校長の学校は、「成績が悪かった」と公表されたのと同じだ。

公表した理由を川勝知事は、「教員を褒めるためだった」と説明しているという。「褒める」という言葉の裏にみえるのは「罰」であり、彼が直前までこだわった下位校の校長名公表は「罰」でしかなかったことを認めたことになる。成績の悪かった学校の校長名もわかる人にはわかるわけだから、川勝知事は半ば、自らの主張を押し通したことになる。

さらに川勝知事は、「校長名公表は教員の責任を明確にするため。上位でも下位でも良かった」とも述べている。全国学力テストの成績結果は、個別の学校だけの問題であり、知事にはない、と言っているにすぎない。

全国で最下位という結果について、自らの責任を問い直すことなどいっさいしない、自己逃避の姿勢が丸見えだ。しかも対策を検討するよりも前に、ただ飴とムチで解決しようというのだから、リーダーとしては最悪、有害ですらある。

教育は順位を争うものではない。にもかかわらず、順位ばかりにこだわり、しかも責任を転嫁する川勝知事の姿勢は、学力テストの成績以上に問題であるといわざるをえない。そういう考え方に拍車をかける全国学力テストを実施する文部科学省に、これまた大きな問題がある。

さらに問題があった。川勝知事が上位校の校長名を公表したことを報じた『静岡新聞』は、わざわざ「学校名」まで報じているのだ。文科省は学校名の公表を禁じているが校長名なら問題ないだろうというのが川勝知事の屁理屈なわけだが、川勝知事でさえ伏せた学校名を、親切にも『静岡新聞』は公表してしまったのだ。

川勝知事を応援しているにすぎない。知事のやりたかったことを、代わりにやってやったようなものだ。

同紙は、電子版の記事に「お断り」として、「静岡新聞社は学力向上に向けた教育施策を議論する上で重要な意味を持つデータとして、独自の取材で学校名を添えました」と説明している。

同紙のいう「重要な意味を持つデータ」の意味が理解できない。川勝知事と同じように同紙も、学校同士を競わせることが学力向上につながる、と考えているとしか想像できない。順位こそが教育、という考え方しかもっていないとしかおもえない。

川勝知事も『静岡新聞』も、全国学力テストで静岡県が全国一になるだけで満足するのだろう。そんな教育しかできない知事と、それを支持するマスコミでは、現在の教育が抱える問題が解決しないことだけは簡単に想像できる。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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