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公立の小学校で独自の授業をやるところが増えているらしいが、狙いは「客寄せ」か

前屋毅フリージャーナリスト

■いいこことならすべての学校でやってもよさそうなのに

公立の小学校で「授業格差」がひろがっているという。各学校が授業内容について考え、工夫することは望ましいことだし、当然のことでもある。ただし、問題は「誰のための授業なのか」ということだ。

今週発売の『AERA』(朝日新聞出版 7月1日号)が、「授業格差が拡大 公立の小学校」という記事を載せている。同じ公立小学校でありながら現在では、授業時間数も夏休み期間も、授業の内容まで違っているというのだ。

2003年から小中一貫教育で国の構造改革特区の認定を受けた品川区では、06年に小学1年生から「英語科」を設けた。昨年度に小学5、6年生で英語が必修科目となり、さらに低学年まで引き下げようとの動きがあるが、その先駆けのようなものだ。

さらには独自の漢字検定や英検を実施している公立小もあるという。夏休みを短くして授業時間にあてている公立小学校は、もはや全国的にも珍しくない。

■客寄せパンダ的授業にならないか

公立小学校を運営するのは各地方自治体である。それまでの画一的な公立小の授業に「格差」ができるほどの変化が起きているのは、各地方自治体がにわかに教育熱心になったからなのだろうか。

それも、理由としては少しはあるだろう。しかし、それが大半の理由ではない。地方自治体が公立小学校での授業を他と「格差」をつけようとしているのは、我が子をよりよい教育環境で育てようと考える住民の流出を防ぎ、特色のある教育で新しい住民を呼び寄せるという狙いが大きい。

人口の多い都市部にしても、公立は私立との厳しい競争にさらされている。画一的な教育姿勢では、公立の存続が危うくなりかねないのだ。

つまり公立小学校における格差競争は、自らの存続をかけた戦いの結果でしかない。「格差」をアピールするためには、より分かりやすい、目立つものでなければならない。全国学力テストの結果は他校や他県と比較する趣旨のものではない、と文部科学省は口では説明しているものの、各校は自校の宣伝に利用しているし、文科省が各校・各県を競わせる材料にしているのも見えみえだ。

公立小学校が独自の特色ある授業を考え、実施することには反対しない。しかし子どもたちのほんとうの意味での成長は二の次にして、自校を存続させ、生徒を集めるためだけの授業なら、これから弊害が指摘されることになるだろう。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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