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日本郵便発足からみえてくる「ゆうパック」の実は苦しい実情

前屋毅フリージャーナリスト

■日本郵便発足は赤字隠しか?

10月1日、日本郵政は傘下の郵便事業会社と郵便局会社とが合併して新会社「日本郵便」が発足させた。小泉純一郎政権の郵政改革で5社に分社化された日本郵政グループは、持ち株会社の日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命、そして日本郵便の4社体制となる。

小泉政権の郵政改革は、民営・分社化することで採算性を厳しく見極める狙いがひとつにはあった。しかし日本郵便の発足で、郵便事業会社が担当していた郵便物を集配業務と郵便局会社が担当してきた貯金や保険をふくめた窓口業務が統一されることになる。同じ郵便局内に違う会社の窓口が混在するという不合理は解消されることになるが、小泉郵政改革が目指した採算性の見極めという目的からは後退することになる。

実際、合併の効果は大きい。2012年3月期決算で郵便事業会社の純損益は45億円の赤字だったが、郵便局会社は188億円の黒字である。両社が合併すれば、郵便事業会社の赤字は郵便局会社の黒字で隠せることになるのだ。郵政グループにしてみれば、問題の目隠し効果は大きい。

■日本郵便の姿勢が表れる会長人事

いくら郵政グループでも、郵便事業の赤字を見過ごしにしたままでいるわけにはいかないはずだ。赤字たれ流しで平気なお役所的感覚をもちつづけていては、その存在意義さえ問われることになるだろう。

しかし日本郵便が発足しても、郵便事業の根本的な改善策は示されていない。それがないかぎりは、ただ問題の目隠し、問題の先送りにしかならない。

そうした消極的姿勢が、日本郵便の人事にも表れている。日本郵便会長に就任したのは、郵便局会社の古川洽次会長である。古川会長は1962年に九州大学法学部を卒業して三菱商事に入社し、同社の副社長まで務めた人物で、つまり三菱商事と太いパイプをもっている。

その三菱商事はコンビニエンスストア「ローソン」の筆頭株主なのだ。コンビニといえば現在、荷物配達サービスの集荷窓口として欠かせない存在である。電子メールの普及などで郵便に明るい展望が開けないなかで、荷物配達サービス「ゆうパック」は収益をのばしていける可能性の高い分野だ。

ゆうパックの取扱窓口になっているのが、ローソンである。日本郵便としては、ゆうパックの業績を伸ばし、業績の柱としていくためにも、ローソンとの関係を切るわけにはいかない。だからこそ、三菱商事と太いパイプのある古川氏を日本郵便の会長にすえたと推測できる。

■危機的なゆうパック

しかも、日本郵便には三菱商事、そしてローソンとの関係を強化しなくてはならない事情もある。

事業規模が大きくなりつつある事業分野だが、このサービスはこの窓口を多くもっているかどうかが、このサービスでの採算性に大きく影響する。

日本郵便は郵便事業会社がやってきた荷物配達サービス「ゆうパック」

同社の新浪剛史社長も三菱商事出身と、強い影響力をもっており、ゆうパックがローソンを繋ぎとめておくためには重要な存在であり、そのためには日本郵便の重要ポストに三菱商事と太いパイプのある古川を据える必要があったというわけだ。

2012年4月段階では、ゆうパックを扱うコンビニは全国で2万77店舗、ライバルのヤマト運輸が展開する宅急便が2万5895店舗とほぼ拮抗していた。ところが6月末に、それまでゆうパックを扱っていた「サークルKサンクス」がヤマト運輸に乗り換えてしまったのだ。

これによって、ゆうパック取扱いのコンビニ店舗から6184が減って1万3893店舗となってしまった。逆に宅急便を取り扱うコンビニ店舗は3万2079店舗に増えた。大きな差が生まれたのだ。

ゆうパックとしては、これ以上、取扱窓口を減らすわけにはいかない。そうなると、1万3893店舗まで減ったなかで1万639店舗までを占めるローソンとの関係を絶対に切るわけにはいかないのだ。だからこそ、ローソンとのパイプになるうる古川会長の就任が必要だったのだ。

■消極策ばかりの日本郵政グループは問題だ

とはいえ、人事のパイプだけでローソンとの関係をいつまでも維持できると日本郵便が考えているとしたら、問題である。役所的感覚から抜けきっていない、というしかない。ローソンとの関係を維持するなら、お互いがメリットをえるパートナーシップを築くことを優先すべきである。

そうしたパートナーシップを築けていないからこそ、サークルKサンクスは乗り換えてしまったのだろう。2010年にゆうパックは、34万件にもおよぶ遅配問題を起こして信用がガタ落ちとなった。そこからの改善が目にみえるかたちで行われたとはおもえないし、それが行われていればサークルKサンクスとの関係も維持されていたかもしれない。

優先すべきことを二の次にして、合併で郵便事業の赤字を見えにくくしたり、人事で関係を維持しようとしたりの消極姿勢ばかりでは、根本的な解決にはつながらない。日本郵政グループの経営姿勢が問われている。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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